2016.12.01更新

 今年からストレスチェック制度が始まり、高ストレス者の医師面談を行うようになりました。そこでよく出会うのは、やはり長時間残業をしている労働者。

少し前、電通で長時間労働を強いられていた方が自殺したというやりきれないニュースがありましたが、まさに氷山の一角です。それでも、きちんと時間外労働時間が管理されているならまだいい方で、多くの企業では、いまだに時間外労働を正確に記録できていないのが実態です。

 

なぜきちんと打刻しないのか労働者に尋ねてみると、職場風土の問題として残業申請をしにくい状況があったり、正確に打刻しにくい雰囲気があったりするとのことです。申請しようとしても上司から嫌な顔をされる、残業が長いとただ「残業時間を減らせ」と言われ業務量は減らないから困る、先輩たちもつけてないからとか・・・。労働者側にも「自分が効率的に出来てないだけだから残業申請するのは申し訳ない」「みなし労働なのでどうせ残業代がつかないから申請しない」などの心理が働くことが要因になっているようです。

 

長時間労働が常態化すると、結局、時間内に終わらせるという健全な緊張感も弛緩してしまうようです。

帰宅が遅くなり、睡眠時間が削られ、脳の機能が低下し、効率が落ちます。そして、効率が落ちることにより、時間がかかり、ますます長時間残業から抜けられなくなる悪循環も生じます。深夜に及ぶ残業をしている間、脳の機能は酔っぱらっているときと同じ程度まで落ちるのだそうです。そんな状況で良い仕事ができるのかはなはだ疑問です。

 

それでも長時間労働が無くならないのは、「長時間働くことは美徳」という日本的な考え方がまだまだ支配的だからだという気がしてなりません。

特に、経営層や管理監督者の中にはきわめてタフな働き方をしてきた方々が多く、自身が若かった時にモーレツに働いていたことを基準にして考える人が多いのです。残念ながら、上の立場の方たちが、長時間労働を心のどこかで是としているうちは、組織の雰囲気は変わりません。

「人事がうるさいから残業するな」というような指導になりがちで、時間内に効率的に働く環境を作ろうと本気で取り組むことがないようです。(次回につづく)

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2016.06.17更新

 

先日、東京大学で職場のメンタルヘルス専門家養成講座の同窓会がありました。私は第一期生ですが、今回は4期生が加わり、さらに大きな会として発展しています。

そこで、主任教授の川上憲人先生からストレスチェック制度が今後どのようになっていくかについての予想についてお話がありました。川上先生は「どこまで予言が当たるかはわからないけど」と、控えめに話してくださいましたが、私は大いに実現しそうだなあと思いました。

一つは、現行のストレスチェック制度では組織分析に基づく職場環境改善については「努力義務(やることが望ましいが、やらなくても罰則はない)となっていますが、これがおそらく今後「義務(やることが必須になる)化」されるだろうということ。

もう一つは、現在、従業員が50人未満の事業所についてはストレスチェックを行う必要がありませんが、これもおそらく今後義務化されていくだろうということです。

どちらも、働く人の健康を守るうえでは当然の発展と言えるでしょうが、事業者の負担は増えるため、実際には真面目にやるところと、形だけ最低限にやって済ますところと2極化していくのではないかと、私は予想しています。また、医師面談をきちんと行って、職場に結果をフィードバックできる産業医がどのくらいいるのかも心配な点です。というのも、今回のストレスチェック制度の施行に際して、ストレスチェックの実施者になるのが嫌だからという理由で辞めてしまう産業医が結構いるという話を耳にするからです。

ストレスチェック制度はうまく機能すれば従業員の心の健康増進、生産性のアップにつながることが期待できる可能性を秘めていますが、それも運用する事業者トップ層の考え方や、かかわる産業医の質によって有益なものとなるかは大きく左右されそうです。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2016.05.30更新

 

昨年、50人以上の従業員がいる事業場では年に1回従業員にストレスチェックを実施することが法律で義務付けられました。多くの企業で今年が初めてのストレスチェック実施となるはずです。

 

ストレスチェック制度は働く人の精神的健康を向上させ、職場環境の改善を促すためのものですが、まだまだ、一般の方に十分に理解されてない面も多いと思われます。

 

よくある誤解は、この制度が精神疾患の早期発見のためのものであるというものです。現実には、この制度はあくまでも疾患の予防を目指すためのものであり、疾患をあぶりだすことを目的としてはいません。つまり、ストレスチェックで高いストレスにさらされていると判定された「高ストレス者」が、すなわち精神疾患というわけではありません。従業員の方々にご自身のストレス状況についてフィードバックして、気付きを促すことや、組織集団の分析結果を用いてストレス度の高い部署の環境改善を促すことが主たる目的なのです。

 

また、ストレスチェック制度では、高ストレス者と判定された場合、本人が希望すれば医師の面接指導を受けることができますが、このことに関しても十分な理解が必要です。面接指導をする医師とは、多くの場合、その事業所の産業医ということになりますし、面接指導を希望したことで、従業員の方の情報が会社には伝わることになります。このことを嫌って、高ストレスであるにもかかわらず、医師の面接指導を辞退してしまう場合がかなりあると予想されます。そうなると、本当はサポートが必要な方がフォローアップされなくなってしまうことが懸念されます。実は、ストレスチェック制度で規定されている医師の面接指導は辞退しても、通常の産業医業務の中で行われる従業員との相談の方で話をすることができるのです。こちらのルートであれば、自分が高ストレス者であることなどを会社に伝える必要はなくなりますので、よりプライバシーに配慮した形でフォローを受けることができます。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2016.02.23更新

 

前回の続きです。

3.課題遂行のためのテクニック
薬物療法以外で、できることは、前述したように目標を定めて課題を実行することです。
「技法」としては、考え方や行動のクセを変えるためなら認知行動療法、他人との関わり方やコミュニケーションの問題なら対人関係療法といったテクニックがあります。
目標や課題がどのようなものかに応じて、それらを使い分けることができます。
認知行動療法や対人関係療法がどのようなもので何をするものなのかは、課題が決めればきちんと治療者から患者さんに教えることができます。
しかし、そういう技法・テクニック以前に大事なことは、良好な患者-治療者関係です。
その中で、目標や課題を明確にして実行可能なやり方を工夫していけば、治療がうまくいく可能性は格段に上がります。
結局、これまでのことから明らかなように、課題を決めたり実行したりするのは患者さんが主役なのです。
現状が辛いのだとしたら、(当然好きで続けているわけではないにしても)患者さん自身が辛くなることを続けているのであって、人は自分を変えることでしか良くならないのです(変えると言っても現在の自分を「否定する」のではなく、「広げる」ということです)。
医者は患者さんが自らを変えていくお手伝いができるだけに過ぎません。

 

 

4.患者-治療者関係を見直してみるようにお願いする
もしも、これまで述べてきたことを患者さんにお伝えして、患者さんが治療者の言わんとすることをスムーズに理解できて、頑張る気になれそうなら、その患者-治療者関係は良好で、何も問題ありません。
ところが、一方で、そんなことを言われても困る、役に立つ気がしない、何となく不愉快だ、というような感じに患者さんがなるとしたら、その患者-治療者関係がうまく行ってないことを示しています。
それは、治療者である私が患者さんの気持ちをちゃんと聞けておらず、患者さんが私から尊重されている感じがしていないのに、私が患者さんに要求ばかりしている可能性が大きいということを意味しています。その場合は、目標や課題の話の前に、私は患者さんが私に対して感じている不満をきちんとお聞きしなければなりません。
言いにくくても率直に不満を話してください、と伝えます。そのやり取りを通して、患者さん自身が、私を自分の治療者として信用に足る存在か、共にやって行こうと思えるかを値踏みしてみるように重ねてお願いします。私は全然完璧な人間ではありませんし、治療者として未熟な面もまだまだあります。
きっと自分の知らないところで患者さんをがっかりさせたり、いらだたせたりしていることがあるのだと思うというようなことも話します。そして、それでも、私は患者さんが困難を乗り越えて、医療を卒業できるようにお手伝いしたいと思っているということを強調します。

このようなやり取りを患者さんと行って、治療関係を洗い直し、治療方針を立てなおそうと努力をします。
その結果、経験では半数以上のケースでは何らかの状況打開に至るようです。その一方で、残りのケースでは残念ながら患者さんの納得が得られず、治療中断や転院希望に至ります。
ただ、それでも、うまくいかないままズルズルと治療を続けるより、新たな治療者とやり直した方がいいのかもしれません。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2016.01.05更新

 

残念ながらベストを尽くしても、治療がうまくいかないときがあります。治療者と患者さんの協力関係がしっかりしていれば、何か打開策を見いだせることがほとんどですが、行き詰りは多くの場合、治療関係がうまくいってないことを意味します。そんなときに、当院で行っていることを紹介します。

 

1.まずは現在の状況の確認
残念ながら治療は行き詰っており、私が患者さんの力になることができていないと思うことを患者さんに率直に伝えます。同時に、その責任の多くは私にあること、何とか今の状況を打開したいと願っていることも言葉で伝えます。その一方で、患者さんが何について困っていて、どの点で私の助力を必要としているかについて私の中で明確ではなくなっていることを伝えます。表面的には「つらい」「眠れない」「対人関係がうまくいかない」などの訴えはもちろん分かっていますが、より具体的に、その解決のためにどのような課題を設定して、どんな方法で対処していけばいいのかがあいまいなのだと。これでは、診察のたびに、「つらい」「苦しい」「うまく行ってない」ということはお聞きできても、それらを解決していく話ができず、毎回の診察が一連の「シリーズ」ではなく、その場その場の「バラバラ」になって、治療効率が上がらなくなっているのだと説明します。

 

2.状況打開のために必要なこと
一般的に患者さんは多くの難しい問題を抱えていますが、問題を整理して、細分化し、取りかかりやすくすることが有用です。例えば、私の患者さんで、うつ気分を改善したいという訴えの方がいましたが、彼女の気分を改善させるために私たちが最初に取り組んだことは「できなくなっていた家事を少しずつ再開する」「運動習慣を作る」ということでした。どんな家事をどのくらい再開してみるか、どんな運動を何時にどのくらいやってみるか、ということを相談して具体的で分かりやすい目標を立てて、実行してもらい、次の診察で進捗を報告してもらいました。こうすることで、患者さんは取り組むべき課題がはっきりとして、何が出来たか・出来なかったが明確になるので、達成感を持ちやすいし、次に解決すべき問題もはっきりするのです。結局、この患者さんは抗うつ薬を使わずに気分の改善に成功しています。もちろん、すべての患者さんがこのケースのように簡単にいくわけではありませんが、具体的で実現可能な目標を設定し、そのやり方をはっきりさせることは治療の成否を左右する大切な要素です。このようなことを丁寧に説明したうえで、「治療目標」を共有したい旨を伝えます。それは漠然と「とにかくよくなりたい」のようなものではなく、今現在困っていることをどのように解決したいのかという治療上の具体的なニーズのことなのです。

 

例えば、気分を安定させるという「大きな目標」のためには、より具体的な「小さな目標」を一つずつクリアすることが必要です。いろいろな患者さんたちとやってきたことを参考に列挙してみます。
・規則正しい、生活リズムを確立する。
・アルコールをコントロールする。
・家族に対して本当の気持ちを伝える。
・運動習慣を作る。
・職場でのコミュニケーションを変えてみる。
・自分の考え方のクセを修正する。
・感情のコントロール法を学ぶ。
・自分が本当にやりたい仕事に転職する。
・忙しい中でも必ず、自分のためだけの時間を作る。
・イラっとしたときの行動を変えてみる。
・医師の指示に従って薬物療法をやってみる。
・仕事中心の働き方を変えて、余暇活動を増やしてみる。
・自分から友達を誘ってみる。
・職場のランチに無理に付き合うことを止めて、一人で食べてみる。

 

「大きな目標」を実現するために、それを細分化して、具体的な課題とし、実行可能なものから手を付けていくということです。

 

次回へ続く

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2015.11.18更新

アルコールは脳に作用する薬物です。人類は長い間、酒による「酔い」を楽しんできました。一方で、アルコールは使い方によっては健康を害する「毒」にもなります。酒造メーカーは売るために、アルコールの害にはスポットを当てませんし、一般の人はアルコールの害について学ぶ機会を与えられず、よく知らないまま飲酒を続けているのが日本の現状でしょう。

 

アルコールの害について分かっていることは以下の通りです。

①睡眠に与える影響:寝つきを良くする作用がありますが、耐性(クセになる)がつきやすく、睡眠の質を浅くし、睡眠時間を短縮します。

 

② しらふの時の不安・緊張を高める:アルコールは酔いの時は不安や緊張を軽減させる働きがありますが、リバウンドが大きいため、しらふの時は逆に不安緊張が高まります。

 

③ 長期的には抑うつ惹起作用がある:要するに、長く続けていると、気分が落ち込みやすくなるということです。

 

④さらに長期的には認知症を引き起こす:認知症の症状が出る前から、CTなどで確認すると脳の前頭葉と側頭葉の体積が減少していることが分かります。最終的には記憶力が著しく低下した状態になります。

もちろん、少しでも飲酒したら上記のような症状が出てしまう訳ではありません。

 

適度な飲み方というのは当然あるはずです。週2回連続して飲まない日を作ること、習慣的に飲む量は日本酒換算で2合以下にすることなどが、ぎりぎりの条件のようです。すでに、不安・緊張・不眠などの症状が一つでも起こっていれば、アルコールが脳に有害な影響を与えている可能性があります。

パニック障害、社交不安障害、うつ病、強迫性障害、双極性障害などの治療では、アルコールは改善を妨げる大きな要因になります。治療を受ける人は禁酒が原則です。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2015.07.29更新

 

上司から「適応障害なんて気の持ちようだ。メンタルの医者にかかると病気と洗脳されちゃうぞ」と言われた患者さんは、その後も同じ上司から「大人になれてないんだ。もともとそういうところがあるから不調になったとか言い出すことになったんだ」と責められたそうです。世間にはこのような対応をされる上司がまだたくさんいるようです。私は、単にこの上司を批判しようとは思いません。私が得ている情報は主として患者さん側から見た情報であり、もしかしたら、患者さんにも何かしら問題があることを私が理解できてない可能性もあるからです。また、もしかしたら、上司には上司なりの事情があって、このような厳しい言動になっているのかもしれません。

その一方で、適応障害を病気と考えるかどうか、私なりの考えをきちんと示しておかないと、上の上司のような人に傷つけられた人が混乱されると思いますので、以下に述べたいと思います。

 

1.ストレス反応は「質」の異常ではなく「量」の異常と考えた方が良い。
ストレスは誰にでもあります。ストレスがあれば嫌な気持ちがしたり、少し眠れなくなったり、いつものように楽しめなくなることは人間なら当たり前です。ただし、その程度があまりにも大きくなった場合は、「当たり前」ではなくなります。幻覚や妄想が出るような病気の場合は、軽くてもそういうものが確認できれば「病気」というのは分かりやすいはずです。普通の人には通常ないことが起こっているわけで「質的」におかしいと感じやすいからです。しかし、正常な人にもあって、連続的に量的に変化するものは、正常と異常の境界があいまいになります。例えば、血圧も連続的に変化する量です。正常血圧と高血圧の境界もそれほど明確な線が引けるわけではりません。基準はありますが、新たな知見があれば変わったりしますし。でも、200とかを超えれば誰から見ても異常なわけです。ストレス反応の程度も「量的」異常と考えれば、「誰にでもあることだから病気ではない」というのは雑な考えである訳です。そこで正常と「病気」の境目を、あいまいさを完全に排除することは出来ないけれど、設定する必要が出てきます。適応障害の場合は、症状のために日常生活や仕事に支障が出るレベルを超えることが目安になります。このレベルを超えたら「病気」として扱うことは妥当なことだと考えます。

 

2.その人が持っているストレス対処能力は個人差や環境に影響される。
生きている限りストレスフリーになることはあり得ませんが、多くの人は病気にならずに普通に生活していけます。それは、その人がストレスを処理できているからで、ストレス対処能力と呼びます。これは特別なことではなく、問題を整理して一つずつ解決する、誰かに相談して助けてもらう、気晴らしの活動をするとか、多くの人が自然にやっていることです。この能力には個人差があるため、Aさんには何でもないことがBさんには「病気」を引き起こすことになる場合があります。また、その人自身が例えば「誰かに相談する」という適切なストレス対処能力を備えていても、環境的に誰もサポートしてくれる人がいない状況だと、その相談するというストレス対処行動をとれなくなってしまうため「病気」に至ることもあり得ます。その人の個人状況や環境をよく考えずに、「甘え」「わがまま」「性格の問題」と決めつけることは非常に乱暴なことだと言えるでしょう。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2015.04.06更新

 

最近、当院の患者さんが上司から「適応障害なんて気の持ちようだ。メンタルの医者にかかると病気と洗脳されちゃうぞ」と言われたという出来事がありました。もちろん、私は適応障害が気の持ちようだとか、患者さんを洗脳しているなどと思ってはいませんが、今回は、その上司の方がなぜそのような考えになるのかを「相手の身になって」推測してみようと思います。

 

1.そもそもメンタル疾患について理解しようとしない。
その上司の方が生き抜いてこられた時代はおそらく、「つらいのは皆同じ。泣き言言うのはわがままだ」という風潮が強かったのかもしれません。目に見える怪我や内科・外科の病気しか認めないという人たちの中には「自分も苦労したんだから、お前も苦労して当たり前だ」という信条を持っている方が多いようです。この手の人たちにとってはメンタル疾患など贅沢病以外の何ものでもない訳です。

 

2.「適応障害はストレス反応、ストレスは誰にでもあるし気の持ちようで対処できる」と考える。
確かにストレスは誰にもあります。そして、どこまでのストレスに耐えられるか、どこからのストレスなら病気になるかなどははっきりした線引きが出来ません。同じストレスでも、乗り越えていける人がいる一方で、参ってしまう人もいる。となれば、「参ってしまう人が弱いからだ」と決めつけてしまうことは分かりやすい考え方です。

 

3.「精神科医は患者さんを甘やかして、病気を作り上げて金もうけしようとしている」と考える。
これは私たち精神科医も反省しなければいけない点があります。患者さんを甘やかすかどうかは別にして、きちんとした診察や診療をしていないという批判は全くの事実無根とは言えないからです。話をきちんと聞かずに何でもすぐに「うつ」にしてしまう医者、最初から多剤併用で薬ばかり出す医者、薬物療法以外には何もしない医者・・・そういう医者がありふれていることは他院から流れてきた患者さんの話から明らかです。私も他の医者のことばかり言えません。患者さんの問題解決にいつでも本当に適切な対応が出来ているのか、今後もまだまだ改善の余地はあるはずです。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2015.03.02更新

部下の恐怖・欲望・嫉妬・競争心・虚栄心を刺激して動力にすることは危険です。これはついやってしまいがちですが、実はストレスに弱くする道。本当の意味ではやる気も出ません。
「今期のゴールを達成しないと後がないぞ」
「このままでは、○○君に負けるね」
「後輩の○○君の方がましだよ」
「君がちゃんとしないと皆に迷惑がかかるんだよ」など。
これに対して、部下の向上心・使命感・喜び・夢などを動力とすると生き生きと力を出せます。積極的に自ら進んでやるようになります。
しかし、「そんなことを言っても仕事は楽しいだけじゃない。仕事にストレスはつきものだし、喜びや夢だけで乗り越えられるほど甘くはない」と思う方も多いはずです。
実際、ストレスをバネにして活性化する人もいますよね。
では、ストレスに弱い人と強い人(鈍い人ではない)は何が違うのでしょうか?
また、部下に「お前はストレスに弱いから、もっと強くなれ」と単に叱責すれば強くなれるものでもないことは明らかです。ここで、キーとなる概念がSOC(センスオブコヒーレンス:首尾一貫感覚)というものです。SOCは人をストレスに対して強くする、いわゆる「元気にする力」であることが実証されています。

SOCは次の3つの要素からなります。
①把握可能感」ストレスとなることに直面した際に、自分にどんなことが起こっているのかを十分に説明できると思えること
②「処理可能感」自分はそのことを乗り越えられるだけの資源を持っていると信じられること
③「有意味感」そのことを乗り越えることが自分にとって意味のあることだと思えること
把握可能感がない状態とは、例えば、「こんなことをやるために入社したはずじゃなかった」「どうしてこんなに誰でもできそうな雑用ばかりなんだ」「なんで俺が怒られなくっちゃいけないんだ」といった場合です。
処理可能感がない状態とは、「こんな状況を乗り越えるなんて、自分には出来そうもない」「誰に相談したらよいか分からない」「上司に相談してもどうせ何もしてくれないだろう」といった場合です。
有意味感がない状態とは、「こんな辛い状況を何で我慢しなくちゃいけないんだ」「こんな仕事を続けて何になるんだ」「ずっとこの会社でやっていって自分の人生に意味があるのか」といった場合です。
これらは、独立した要素ではなく、相互に絡み合っています。ストレスフルな状況に直面したときに、自分に起こっている困難がどういうことなのか説明でき、自分にはそれを乗り越える能力やサポートがあると感じ、それを乗り越えることが自分のキャリア人生上意味があることだと思えれば、そのストレスは逆にヤル気へと変えられる訳です。

把握可能感を育てるには
まず、困難を抱えている部下と良いコミュニケーションを通じて、何が起こっているのかを把握しましょう。雑用のような小さな仕事でもその意味を教えましょう。ジョブクラフティングと言って、一見つまらなそうに見える仕事でも創意工夫して意味づけを行うことが生産性向上につながることが分かっています。自分の似たような経験を話してあげましょう。そして、日常の雑事で疲れた心に「夢(長期的な共通の目的)」を思い出させるような会話をしましょう。今直面している困難が夢へのステップであることを意識させることがポイントです。

処理可能感を育てるには
実際に「能力があるか」とか、「サポートしてくれる人がいるか」という事実よりも、本人が「ストレスフルな状況でも、自分は自分の工夫や努力、それにサポートしてくれる人たちの援助を受けながら、何とか乗り越えられるだろう」という見通しを持てるかが大事です。普段から、部下のできていることに目を向けて肯定的に認めることが大切です。何か気になることがないか?と、上司の方から時々尋ねてあげること。「困ったことがあったら相談しろ」では相談しにくいものです。相談されたときは、よく話を聞き、上司が回答と与えるのではなく「それでどうすればいいと思う?」と質問します。

有意味感を育てるには
ずばり、「報酬」が必要です。しかし、単なる業績評価・給料では有意味感を持たせるのに不十分です。「自分のやっている仕事にはこんな意義がある」という感覚が必要です。そのために大切なものが、組織に共通した長期目標である「夢」です。上司からの評価も、冷たい成果主義的評価ではなく、「お前は大事な人間なんだ」「お前の成長がうれしい」という心あるメッセージであることが重要です。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2015.02.05更新

 

<質問内容>
電車のつり革やドアノブなどにさわることにすごく抵抗があり、万一、さわってしまったときは、すぐにでも手を洗わないと気がすみません。ふだんから1日に何度も手を洗っているせいか、手荒れもひどくなっていますが、それでも手を洗うことがやめられません。どうしたらよいのでしょうか?
28歳/男性/福井県

 

<回答>
強迫性障害という病気が考えられます。強迫性障害は人口の約3%の人が罹患し、平均発症年齢は20歳前後、3分の2は25歳未満に発症します。強迫観念と強迫行為という2つの症状から成り立っています。強迫観念とは、考えたくないのに心に強く迫って浮かんできてしまう考えで、この相談者のように「汚れてしまったのではないか」という不潔恐怖はよくある強迫観念の一つです。
他には、「カギをかけ忘れたのではないか」「火の元を消し忘れたのではないか」「何かを落としたのではないか」「他人に害を与えてしまうのではないか」などの強迫観念がよく見られます。強迫観念のために引き起こされる不安感を解消しようとして患者さんが行ってしまう行動を強迫行為と言います。この相談者の場合は「汚れてしまった」という強迫観念で不安になるためにそれを打ち消そうとして「必要以上に手を洗う」という洗浄強迫(強迫行為)がセットになっているわけです。
戸締りや火の元を何度も確認する確認強迫も多い症状です。患者さんも、落ち着いている時には、強迫観念が現実的にはおかしいことを認識しており、自身の強迫行為を恥じて、他人から隠れて行っていることがあります。つまり孤独に苦しんでいる方が多いということです。

生物学的異常としては、脳機能画像研究によって脳の前頭葉、大脳基底核、帯状束の活動性が亢進していることが分かっています。また、薬理学的な知見などから、セロトニンやドパミンといった神経伝達物質のバランスが崩れていることが示唆されています。
治療は薬物療法と行動療法に大別されます。それぞれが独立して有効ですが、併用することでさらに効果が期待できます。薬物療法としては、セロトニンを調節する抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が第一選択です。他には古いタイプの抗うつ薬であるクロミプラミンや、必要に応じて、ドパミンを調節する抗精神病薬が投与されることもあります。

行動療法は曝露反応妨害法と呼ばれる方法が有効であることが分かっています。これは簡単に言うと、強迫観念が生じても強迫行為を行わないように訓練するということです。この相談者の場合だと、わざとつり革などに触ってみて、「汚れている」という不安が起こっても手を洗わないで、自然に不安が軽減することを学ぶ訓練を重ねるのです。病気が引き起こす不安に耐えて強迫行為をしないようにすることは大変な努力が必要です。そのため、信頼できる治療者とやり方を良く相談しながら行うことが必要です。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

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