2018.11.27更新

うつ病や双極性障害で休職された場合、復職が順調にいくかを大きく左右することは「認知機能」の回復です。

「認知機能」とは、脳の情報処理のうち、単純な感覚情報の処理などよりも、比較的高度な能力を言います。例えば、文章を読んで内容を理解すること、ある目的のための一連の行動を順序だてること、相手の話の中から重要なポイントを抽出すること、作業に必要な集中力を維持すること、などです。うつ病や双極性障害ではこの「認知機能」が障害されるため、普段通りに仕事ができなくなります。これは、やる気が落ちてしまうと言った「意欲」の問題とはまた別の問題として存在します。

自宅療養中は、気分などが安定して日常生活が問題なくこなせるようになると、不調から回復できたと思いがちですが、実はまだ、認知機能の回復が遅れていることがあります。

「認知機能」が十分に回復していないのに復職してしまうと、思うように業務がこなせないために、焦りや不安が生じて大きなストレスとなります。最悪、そこから病状が再燃して再休職となってしまうこともあります。

このように大切な「認知機能」ですが、今のところ、「認知機能」を直接十分に改善させる薬物は存在しません。運動や頭の体操のような認知機能訓練が有効なようですが、まだ一般臨床の中では積極的な治療法としては確立していません。

私の経験では、早歩きなどの有酸素運動や、運動しながら暗算などの頭の体操を行う運動認知訓練が有効そうな印象があります。他には、何かを楽しめるようになることや「笑うこと」も意外に効果がありそうな感じです。

認知機能の回復度合いを確かめるには、活字を普通のスピードで読んでちゃんと頭に入るか、その作業をどのくらいの時間続けられるか、人との会話で相手の話をきちんと理解できるか、などを見ていくとだいたい分かります。

気分が安定してきて、そろそろ復職が視野に入ってきたら、業務に関連した勉強をしてみたり、資格の勉強をしてみると良いでしょう。外出して人と積極的に会ってみることも準備になりますね。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.21更新

 一般の方はメンタルの病気というと、きっと診察でも患者さんの気持ちや自覚的なつらさなどを重視すると想像されるのではないかと思います。確かにそういうことも大切ですが、われわれ医療者が注目するのは、まず睡眠や食事がとれているかということです。

 うつ病では約90%の患者さんで睡眠障害が認められるなど、多くのメンタル疾患で、「眠れない」という訴えは非常によくみられます。患者さんにとってつらい症状で、治療を求めるきっかけになることが多いものです。食欲が落ちるというのもうつ病などでよくみられます。睡眠・食事という生物として基本的な部分がうまくいかないと、例え他の症状が良くなっていても安心は出来ません。

 そして、単に眠れるとか食べられるということだけではなく、規則正しいリズム(生活リズム)があるかがさらに重要です。例えば、双極性障害(躁うつ病)では、容易に、このリズムが崩れやすく、逆に、リズムが崩れることが発病や再発の引き金になります。他にも、ストレス反応である適応障害でも、休職してストレス状況から離れても、生活リズムが乱れると回復が遅れる傾向があります。さらに、疾患に関係なく、生活リズムが乱れた状態では、まず休職からの職場復帰はうまくいきません。

 生活リズムを安定させるためには、①決まった時間に起きること②朝食をとること③午前10時前に明るい光を浴びること④適度な運動をすることなどがポイントです。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.20更新

 うつ病は比較的頻度の高い疾患で、誰でもかかる可能性があります。WHOによると、2030年にはうつ病が世界でもっとも経済的損失を与える疾患になると予想されています。

 うつ病は社会的に広く認知されるようになって来ましたが、その一方でいろいろな誤解が多い疾患にもなってしまったように思われます。そこで、質問形式でうつ病についてまとめてみます。

 うつ病でみられる気分の落ち込みは、普通の人の落ち込みと違うのか?

うつ病でみられる気分の落ち込みは、専門用語では抑うつ気分といいます。これは以前には「理由がないか、または一見理由に見えることから説明しきれない」気分の落ち込みと考えられていました。これを専門的に了解不能といいます。要するに、うつ病者の落ち込みは正常心理の延長線上にはなく、普通の人が嫌なことがあって落ち込むのとは質的に違うと考えられていたわけです。しかし、その後の調査研究によって、うつ病の抑うつ気分と正常な落ち込みを「質的」に区別することは困難なのではないかと考えられるようになっています。現在の診断基準では理由があろうとなかろうと、はっきりとした気分の落ち込みがほぼ1日中、2週間以上続けば、うつ病の第一条件を満たすことになっています。質よりも「量的」な区別と言えましょう。この基準を厳密に適応すれば、普通の人の単なる落ち込みはかなり除外できると思われます。それでも、私個人は多くの患者さんを観察した結果、うつ病の抑うつ気分は「正常心理の延長では理解できない」という古典的な立場です。このあたりのことはややこしい議論になってしまうためここでは述べません。

 

 職場のストレスが原因でうつ病になるという表現は正しいのか?

 答えをいってしまうとNOです。うつ病自体は原因不明の疾患であり、唯一絶対の原因が証明されているわけではありません。現在の仮説では、うつ病は複数の要因が重ねあって起きると考えられています。とすると、うつ病が労災認定されたという場合は何を意味するのか疑問になるかもしれません。労災認定は、労働者を守るための制度で、純粋な医学的考え方とは多少異なっています。労災認定では「ストレス脆弱性モデル」という考え方が採用されています。本人側の要因が大きければ小さなストレスでも発症してしまう一方、本人側の要因が小さければ大きなストレスがかからない限り発症しないということです。非常にシンプルで説得力のある考え方ですが、それでは「個人の要因」「環境的ストレスの要因」というものをきちんと評価できるのかというと、そこはあいまいなのです。おそらく大多数の人が同じようなストレスがかかれば精神的な不調になったであろうと「社会常識的に納得が出来る」という文脈があるかが労災認定では重要な訳です。医学的には、ストレスはうつ病発症の一つのきっかけとはなりますが、原因とは言えないのです。

 

うつ病の薬物治療は、良くなってからも薬をすぐに止めてはいけないのはなぜか?

 簡単に言ってしまえば、良くなってすぐに薬を止めると再発率が高いことが分かっているからです。最新の研究では、症状がなくなったと思われる時期でも、ある課題を与えられたときの脳機能を調べると正常者とは異なった活動であることが判明しています。これは自覚できないし、客観的な行動にも現れないということです。この脳活動が正常に戻る前に薬を止めると、回復が不完全なために再発しやすくなるというわけです。それでは、どのくらい期間薬を続ければいいのか。正直に言うと、これという決め手はないのが現状です。そもそも初発か2回目以降なのかでも大きく異なりますし、再発した際の症状の重さなども検討しなければいけません。軽度の睡眠障害が残存している場合などは、本当に症状がなくなったと判断していいのか、なども分かっていません。多くの医師は半年から9ヶ月くらいの維持療法が適切と考えているようです。

 

新型うつ病ってうつ病の一種なの?

 違います。まず「新型うつ病」という造語は医学的な用語ではなく、マスコミが作り上げたものです。「若年者などある種の人格未熟性の上に、職場でのストレスに反応して、自らうつ病であると吹聴し、労働義務を逃れようとする一方で、職場を離れると元気なもの」というような意味で使われているようです。職場を離れると元気、という時点でうつ病の基準を満たしていないことが明らかです。実は、一見新型うつ病のように見える疾患はいろいろあります。パーソナリティや発達に問題がある人の適応障害、双極性障害などです。このようなケースを新型うつ病と雑にまとめてしまうことは全く意味がなく、ケース対応をこじらせるだけであると考えます。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.20更新

パニック障害は、有名人がカミングアウトしたり新聞やテレビでも取り上げられることが多い病気です。動機・息苦しさ・胸痛・発汗・体の震え・痺れ・嘔気・嘔吐などの身体症状や「死んでしまうのではないか」「気が狂ってしまうのではないか」といった激しい恐怖感を伴う“パニック発作”と呼ばれる強い不安発作がくりかえし起きます。パニック発作には強い不安を伴うため、救急車を呼んだり、あわてて近くの病院を受診する人も少なくありません。しかし、一般的には病院に着いた時には発作は治まっていることが多く、心電図などの検査、医師の診察を受けても体に悪いところは見つかりません。

[パニック発作]
原因となるような病気や体の異常がないにもかかわらず、突然、以下のような症状が同時に4つ以上発現し、それらが10分以内に頂点に達するのが「パニック発作」です。

心臓がドキドキする。
息切れがしたり、息苦しくなる。
めまいやふらつきがあり、気が遠くなる感じがする。
汗がでる。
震えが止まらない。
窒息するような感じがする。
胸が痛くなったり、胸に不快感がある。
吐き気がしたり、おなかに不快感がある。
現実でない感じ、または自分が自分でないような感じがする。
自分をコントロールできなくなるのではないか、または気が変になってしまうのではないかという恐怖感がある。
死んでしまうのではないかという恐怖感に襲われる。
感覚がマヒしたり、うずく感じがする。 寒気、または、ほてるような感じがする。


一度でもパニック発作を経験すると、その発作があまりに怖かったため、大脳辺縁系という本能的な感情を司る部位に、その恐怖体験の記憶が刻み込まれます。この記憶は、例え本人がその体験を、一見忘れているような、意識してない間も消えることはありません。そして、また同じ発作が起こるのではないか、という不安が起こるようになります。これを予期不安と呼びます。予期不安は、電車に乗るとか、車で高速道路にのるなど、過去にパニック発作の起こったのと似た状況でおこり、予期不安が起こるとそれだけでパニック発作の症状が出てくるようになってしまいます。つまり、発作に対する不安が引き金となり、実際に発作が起こってしまうわけです。また、パニック発作に襲われた場合のことを考えて、一人で外出するのが怖くなったり、電車などの乗り物が怖いとか、渋滞する道路や高速道路での運転ができなくなったり、歯医者や美容院で座っていなければならない状況を恐れたりするようになります。

現在、世界的に効果が確認され推奨されている治療は認知行動療法(CBT)と薬物療法です。ただし、薬物療法単独では限界があり、CBTを主体として薬物を補助的に使い、次第に薬物を中止していくことが大切です。CBTは、症状や問題を患者さんとともに整理し再検討しつつ、行動・身体・思考・環境の4つの側面にアプローチするようなさまざまな方法を試みていくことで、患者さんが症状や問題を解決していく手助けをする治療法です。具体的には、パニック障害の症状発生のメカニズムについて理解し、その対処法を知る。体や心の緊張をほぐし、リラックスする方法を修得する。不安のため恐れ避けている場面や状況をリスト・アップし、不安の強さを1-10で評価した表(不安階層表)を作成し、この表に従って、容易な段階から困難な段階へと、少しずつ実際場面に出て行く練習をする(暴露療法と言います)、などを行います。練習はホーム・ワークとして家庭でも実践することが重要です。

 パニック障害を理解する上で重要なポイント

①パニック障害の本体は交感神経の興奮症状+破局的認知による強い恐怖感です。

不安や恐怖にともない、自律神経が興奮(正確にいえば交感神経と副交感神経により成り立つ自律神経系において、交感神経優位の状態になる)するのは誰にでも備わっている生体反応なのです。人間は恐怖を感じると瞬間的に体をこわばらせ、交感神経の働きにより通常の発汗を抑え、逆に手掌などの発汗は促進され、腸管の動きを止め、末梢の血管を狭め、呼吸数・心拍数をあげるなどの反応をおこします。これは恐怖対象に対してのスタンバイをした状態であるといえます。こうした際の反応として、自律神経の働きは生体防御上とても重要なものであるといえます。
 つまり、自律神経の興奮は本来備わっているべきもので、これ自体は特に病的なものと考えなくて良いのです。ただし、パニック障害で発作を繰り返すと、交感神経が興奮しやすくなったり、反応が過剰になるので、異常に感じられるのです。このようにパニック発作の身体症状自体は、「基本的には無害」という理解は重要です。例えば、あわや交通事故に遭いそうになったり、重要な試験の結果の発表の前や舞台のそでで出番を待っているときなどに、心臓がドキドキして息苦しくなるように感じることは誰しも経験することです。このような時ドキドキしても誰も病気とは思いません。しかし、何かのきっかけで、このような理由がないのに急に心臓がドキドキしたら、この基本的には無害な交感神経の興奮症状を、「何か致命的なことが起こっている」と思い込むかも知れません(破局的認知)。その場合、不安・恐怖は倍増し、そのためにますます交感神経が興奮し、身体症状は激しくなります。するとますます不安になり、それがまた・・・という悪循環に陥るのです。

②病気の原因を詮索することは無意味、時に有害。

自律神経は体中に分布し、各臓器の働きを調整しています。したがって自律神経の不調によりおこってくる問題は、一見各臓器の問題のように思えるのですが、実際は異なります。心臓や肺に問題があるのではなく、それらの機能バランスに問題を生じているだけなのです。それでは、なぜ自律神経が不安定になるのでしょうか?これには、脳内の青斑核という場所の過剰興奮が原因の一つとして指摘されていますが、確定はされていません。セロトニン神経系が関わっているのは確実なようですが、それがそもそもの原因かは不明です。実際にはただ一つの原因ではなくさまざまな要因が重なっているのだと推定されています。この病気の原因は「心が弱いから」ではなく、同時に「心臓が悪いから」でもないのです。ちょっと考えると、病気の治療は原因がはっきりしているほうが確実な気がします。しかし実際には原因が特定されていなくても治療可能な疾患は数多くあり、パニック障害もその一つです。心でも心臓でも、一つの原因にこだわるのはむしろ有害です。
症状が維持されているメカニズムとして、2つの悪循環を理解する。

③そもそもの原因が何であれ、パニック障害の病態の本質は2つの悪循環から構成されます。

一つはすでに説明した症状レベルの悪循環です。もう一つは生活レベルでの悪循環です。これはパニック発作という症状にとらわれ、病気を恐れるあまり、外出を避けたり、楽しみを失い、生活の大部分を病気に支配されてしまうことです。すると、例えば朝起きると、必ず体の状態を常にチェックするようになったり、些細な不調にも敏感になり、強く感じるようになります。2次的にうつ状態になる方も多いです。それにより、ますます「具合が悪い」と思い込み、行動や活動が制限されてしまうのです。


④パニック障害で死ぬことはありません。
この障害により死にいたることはありません。

 

パニック障害の治療のポイント

[体質改善・環境調整]

 どんな病気の治療でも、基本的な体力が重要です。病歴が長い患者さんの中には、生活リズムが不規則で食事のバランスも崩れている方が多いようです。また不安や不眠のため習慣的に飲酒している方も少なくありません。しかし、本気で良くなりたいなら生活リズムと食事習慣を改善することは大切な土台です。土台がしっかりしてない治療はうまくいきません。アルコールは目先の効果は確かにありますが、最終的には、抑うつ・不安・不眠を悪くすることが証明されているので、治療中は断酒が必要です。生活リズムの改善には1~2ヶ月かかりますから根気が要りますが、避けては通れません。少しずつでも構わないので実行してください。難しい点は、あきらめる前に医師と相談して、やり方を工夫しましょう。完璧主義から失敗することもあります。

不眠があっても起床時間を一定にする。朝食は必ずとる。
牛乳一杯でもいいからお腹に入れること。
午前中に外の光を30分は浴びること。
昼寝はしない。
トリプトファンを含む肉や魚介類、卵、大豆製品をとること。
腹式呼吸訓練5分間を一日3回やること。
できる範囲で散歩程度の運動をすること。
酒はやめる。やめられないときは医師と相談する。
たばこ、コーヒーも発作を誘発するので、控えること。


[薬物療法]

 これまで三環系抗うつ薬や抗不安薬というくすりがパニック障害の治療に使用されてきました。これらの薬剤はパニック障害に有効ですが、それぞれに欠点があります。三環系抗うつ薬は便秘、口渇(のどが乾く)、排尿困難(尿が出づらくなる)、眠気、立ちくらみなどの副作用が少なくありません。抗不安薬は漫然と使い続けると習慣性・依存性の問題が指摘されています。最近では、比較的副作用の少ないSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という新しい抗うつ薬が治療の主流になりつつあります。ただし、どんな薬を使うにしても、その狙いは薬による完治ではありません。いったん症状を軽くして、CBTをやりやすくするということにつきます。

[認知行動療法]
 認知行動療法(CBT)は簡単に言えば、患者さんのパニック発作に対する考え方を変え、パニック発作にうまく対処することができるようにし、不安を感じてしまう状況に徐々に馴れるようにすることです。CBTでは、常に明確な目標に向かって医師と患者さんが共同作業を行います。一定の期間の後、治療の効果を判定して、その後の治療方針を決定します。薬物による治療は、いったん改善しても再発の危険が高く、結局薬がやめられなくなる人がいますが、CBTによって改善した場合は、再発率がかなり低くなります。
発作の記録表をつける。発作が起きやすい状況や頻度を確認する。
思考記録表をつける。破局的認知など認知の歪みを点検する。
発作または予期不安のため出来なくなっている行動を具体的にあげる。
③であげた行動のうち、難易度や意欲を考慮してターゲットとなる課題を決める。
課題達成のための方法を医師と相談する。
実際にやってみる。
結果について医師と検討する。

最後に・・・

 

いままで苦しい思いをしてこられた患者さんは、ほんとうに辛い日々であっただろうと思います。これまで治療を受けてきたのによくならなかった方は医師や医療に不信感をお持ちになっても仕方がないとも思います。しかも、辛いにもかかわらず、周囲の理解が得られず孤立してしまった方もいらっしゃるでしょう。しかし、パニック障害の治療が日本で大きく進歩したのはここ数年のことなのです。今までうまくいかなかった方も改善する見込みはかなりあるはずです。もう一度、治療を仕切りなおししましょう。

最後に、この治療の本質的な特徴についてお伝えしなければなりません。この治療には患者さんの積極的な参加が必要です。もうお分かりの通り、治療の本質的な部分は日常生活の中で患者さん自身によって行われます。これをホームワークといいます。患者さんはホームワークを、嫌々やらされるのではなく、自分の治療のために進んでやらなければなりません。特に難治性の場合、ホームワークをやらなければ改善は期待できません。この点で、患者さんにも治療の成否に対して責任を分担していただきます。これは、道徳的な要請ではありません。ただ単に治療上の必要性からのことなのです。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.19更新

 たばこに含まれる依存性物質はニコチンです。

 ニコチンは脳内のアセチルコリン受容体に結合し以下の作用をもたらします。

覚醒作用:眠気をとる
鎮静作用:イライラを鎮める
食欲抑制作用
たばこがやめにくいのは、ニコチンが脳内から失われるときに、一時的に脳内のバランスが崩れ不快感が生じるからです。アルコールを飲酒した事のある人は10%以下しか依存を形成しないのに、たばこに関しては95%の人が依存を形成します。 ニコチンの不快な禁断症状が、依存性を形成し易い理由だと考えられます。ニコチンの禁断症状は数時間以内に始まり、切望感、不安、集中力困難、焦燥感、うつ、食欲の増加、頻脈、不眠、などがあります。80%以上の喫煙者は止めたいと思っていますが、実際に成功するのは約5%に過ぎません。「私はたばこ依存なんかじゃない」と思う方はネットで検索すればニコチン依存症のスクリーニングテストを見つけられますのでやってみて下さい。

禁煙するとどうなるのでしょうか?

たばこを吸わないと約2時間後に脳内のニコチン濃度は半分に減り、喫煙欲求が生じます。我慢していると、次第に辛くなってきますが、2日目がピークで、その後は楽になってきます。普通3~5日目になると、一山越えた感じが分かるようになります。しかし、衝動的にたばこが欲しくなる欲求が波状に襲ってきます。ここで、大切なのは、喫煙欲求はせいぜい2、3分しか続かないという点です。その「瞬間」をやり過ごせば、しばらくは大丈夫という訳です。しかも波の間隔は徐々に長くなって、回数は減っていくのです。

 

 やめ方のコツはあるのでしょうか?

頭がボーっとしたり、眠気を伴って、吸いたいときは、体を動かして冷たい水を飲みましょう。

イライラして、吸いたいときは、深呼吸をしたり、ゆっくり食事をとりましょう。

 

 禁煙の時期によって失敗のパターンが違います。

1~2週間目:気の弛み、つまり「一本ぐらいならいいか」という失敗が多いようです。飲酒を控えて充分な睡眠をとるよう心がけましょう。
~3ヶ月目:行動記憶、つまりクセになっている習慣による失敗です。目覚めの一服、食後の一服など習慣的に吸っていた場合、同様の状況でつい今までの行動を繰り返してしまうということです。これを防ぐには、生活習慣をバッサリと変えてみるのが手です。目が覚めたら、たばこを吸う代わりに体操するとかシャワーを浴びる。食後はたばこの代わりにコーヒーを飲むとかです。たばこという以前の習慣をただ抜くだけでなく、それに代わる、これまでになかった新しい習慣をつけるがコツです。

 

3ヶ月やめられたらしめたものです。しかし油断しないでください。3年やめられたらその後はまず大丈夫でしょう。

 

 

 保険で受けられる禁煙治療もあります。

一定の条件はありますが、保険診療として禁煙治療を受けられる場合があります。主としてチャンピックスという禁煙補助薬を使用します。チャンピックスは脳内のニコチンが作用する受容体を適度にブロックすることで、タバコ由来のニコチンの働きを遮断し、その一方で、ニコチン渇望症状を和らげる働きをします。何も使わない禁煙の成功率を約10%とすると、ニコチンガムで約20%、チャンピックスでは約30%くらいまでに上がります。チャンピックスの副作用は主に吐き気で、このために使用できない人がたまにいらっしゃいます。

 

 

 

 

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.16更新

 本当に時々でしかないのですが、治療を終えた患者さんから、嬉しい手紙を頂けることがあります。

 メンタル不調に陥るということは、非常にしんどい、嫌な体験である一方で、それをきっかけに自分を見つめ直したり、さらに成長することにつながったりする場合があります。そんな時、そのことに関わることができることが私の喜びでもあります。そんな一例です。

 その患者さんは、2年以上前より腹痛と下痢に悩まされていました。胃腸科でも診断がつかず、なんとなく、仕事上のストレスが症状に結びついているのだろうな・・・とは思っていながら、メンタル系の病院には抵抗があり放置してきましたそうです。しかし、電車も途中下車を繰り返すようになり、出勤も困難になりました。さすがに、これはおかしいと思って、当院に来てくださりました。

 治療の過程では、いろいろなことを考える時間をもてたそうです。今までの人生で、自分で何かを決めて選んだことが少なかったことに改めて気づいた結果、3ヶ月の休職の後、退職という選択をしました。「それを決めるまでが葛藤の日々でした」と手紙にはつづられていました。両親にしてみれば、6年勤務した世間的にも立派な会社であり、退職することは無いんじゃないかと・・・。それに、転職するなら、一旦戻って、次を見つけてから辞めればいいじゃないかと・・・。もっともな正論ですよね。それでも、その患者さんは、自分の中では、会社が嫌いになったわけではないが、もう戻るところではないと感じていたそうです。

 診察の時、「失敗してもいいじゃないですか。自分の人生なんだから、自分で選んでいいんですよ。自分が納得して選んだ道なら、失敗してもそれがまた糧になるのではないでしょうか。」と私に言われて、当たり前のような言葉ですが、自分にはそれがなかったのだと気づいたそうです。

 「両親の顔色を伺い、世間体や社会的安定などにとらわれて生きてきましたが、そんなものは一度抜け出してみたら大したものではなかったと今は思えます。ありがいことに希望した業界での内定をいただいた時に、妹からこう言われました。「お姉ちゃん、初めて自分で決めて動いて成功したね。」本当にその通りです。新しい業界では一からのチャレンジです。きっと悩んだり考えたり、苦労も多いと思います。でも、自分の選んだ道ですから、頑張れると思います」と手紙は結ばれていました。

 この患者さんのこれからの人生が実り多きものであるよう祈っています。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.15更新

 今回は、水島広子先生の対人関係療法の著書を引用しながら、「気持ちを話せない悪循環から抜け出す」というテーマでお届けします。

 頭痛、腹痛、下痢、動機、めまい、過食、拒食など・・・身体的には異常がないにも関わらず、ストレスにより体に症状を現れることがあります。表に見えている症状は様々ですが、このような症状が出る人の特徴の1つとして、「気持ちを話すのが苦手」という共通点があります。

 自分の気持ちを話せない人の不安は、主に3つあります。

①自分の気持ちが他人からどう思われるかという不安

 嫌われるのではないか、ダメな人間だと思われるのではないか、などと考えると、なかなか自分の気持ちを打ち明けにくくなります。

②自分の気持ちを話すことによって起こるトラブルを怖れる気持ち

 「いい人」でいようとする人は、他人からどう思われるかという不安を持っているのと同時に、人間関係での対立が怖い、と感じます。人と意見を闘わせることによって問題を乗り越えたり、深い関係をつくった経験がないので、「意見の対立=関係の崩壊」と考えてしまうのです。自分の意見を言うことが生産的な意味を持つというイメージがうまくわきません。身近な人からそのようなプラス例を学んだことがないという人がほとんどです。

③自分の気持ちを打ち明けることで、人との距離が近くなるのが怖い

 人との距離が近くなって「本当の自分」を知られてしまうと嫌われるのではないか、という①の不安に近いものです。

 

 さて気持ちを話さない結果としてどのようなことが起こるのでしょうか。まず、「相手にどう思われるか」を気にして気持ちを言わないと、相手は「本音を言ってくれない、自分と親しくなることに関心のない人」、「つまらない」などという目で見られることになり、必ずしもプラスの効果を生むわけではありません。人間は、相手に点数をつけるために人と関わるのではなく、親しくなって人間関係を楽しみたいから関わることが一般的です。ですから、「完璧な人」よりも「欠点も含めて人間味のある人」の方が好かれる場合が多いのです。

また、対立を避けるという姿勢ですが、相手と気持ちを話し合ったからといって必ずしも争いになるわけではなく、むしろ関係性を深めることになります。説明が不十分なほうが誤解されて対立につながるということもあります。本当の意味で対立を避けたければ、「対立を避けたい」という自分の気持ちを正直に話した方がよいのです。ちゃんと本心を言い合ってお互いを知ると同時に、「相手は本当のことを言ってくれている」という信頼関係を築いていくのが人と親しくなるということです。

「気持ちを話すと相手に振り回される」という考えも、実は全く逆で、自己主張をしていかないと人のペースに振り回されるばかりです。

このように、気持ちを話すことの意味をしっかり意識して人とのコミュニケーションを進めていくことが第一歩になります。

 そして、「私は~思う、~感じる、~したい」という自分の気持ちを、日々確認する必要があります。日記をつけてみたり、「私はどう思ったんだろう?」と、自問自答してみるのも良いかもしれません。気持ちが確認できるようになれば、伝えることの実践です。相手を批判したり、責める印象にならないためには、「あくまで自分の気持ちである」というニュアンスを伝える必要があります。「私は」を主語にして、自分の気持ちを表現してみましょう。このようなことを実践していく中で、相手との信頼関係が深まる過程を体験できます。その繰り返しで、自分の気持ちを話すことの心地よさ、大切さを実感していただきたいと思います。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.15更新

 私は「うつ病」という診断を非常に狭くとる医者です。DSMの大うつ病エピソードを一見満たしていても、「食事がおいしい」とか「もしも今の環境を変えることができれば、〇〇する自信がある」とか「自分のセールスポイントそれ自体は失われていない」とか言うケースでは「うつ病」と診断することにかなり慎重になります。ただし、その場合でも症状の重さに応じて抗うつ薬は使用しますが。
 なぜ、こんなことを書いているかと言うと、以前ちょっと診断に迷った「うつ病」患者を経験したからです。
 その人は50代の男性で、職場には明らかな誘因はなく、家庭には大きなストレス因がありました。妻との関係がずっと悪いと言うのです。理由は?との私の質問に「自分の浮気です」とあっさり語る初老の男性。しかも、そのバレた浮気は数年前で、今は別の女性と2度目?の浮気をしているとのこと。私は違和感を覚えました。「秩序を重んじ、組織や家庭との一体感を優先する.」という「うつ病」のタイプから外れているように感じたからです。それでも、過去に軽躁状態と思われるエピソードもありませんし、症侯学的には「うつ病」なので仕方ありません。診断基準には「浮気している者は除く」なんてありませんから。
 結局、抗うつ薬の治療で比較的順調に回復しました。私がやはり「うつ病」で良かったと確認できたのは、自宅とクリニックは比較的遠方であったのに予約通りにきちんと通院してくれたことと、何よりも、復職訓練として指示した図書館模擬出勤などを真面目にこなし、生活記録表も几帳面な字でしっかり記入してくれた彼の律義さ・几帳面さ(ある種の強迫性)からです。
 先日、ある先生の講演を聞き、現代型うつ病(流行りの新型うつではありません)という概念を再確認できました。うつ病患者さんの「強迫性を伴う組織への一体化願望」を現代の会社は抱えることができなくなったために、職場では強迫的に仕事をこなすことをあえて避けて、私生活では強迫性を示すというタイプで、軽傷ではあるが内因性うつ病、なんだそうです。上の患者さんも、家庭では「うつ病」患者らしからぬ夫ですが、おそらく職場・仲間内・浮気相手の前?では「うつ病」患者さんらしさを保っているのだろうなと推察されます。夫婦間に何があったのかは知りませんが、彼の奥さんは彼の「一体化願望」を抱えられなった人なのかもしれませんね。決して、浮気を肯定している訳ではありませんので、念のため。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.14更新

前回は双極性障害の治療薬である気分安定薬について書きました。今回はそれらの副作用についてです。

炭酸リチウム(リーマス)は、通常使用量では眠気やふらつきなどはほとんど生じません。その意味では飲みやすい薬です。比較的良く見られる副作用は、手の振るえと下痢です。手の振るえは激しくはないのですが、時に作業に支障が出る場合があります。薬を減らすことで対応できない場合は、β遮断薬という薬で軽減することが出来ます。下痢は、ほとんどの人では問題になりませんが、まれに薬をかなり減らさないと治まらない方がいます。吐き気も頻度は多くないですが、時に見られる副作用です。美容上問題となる副作用として「にきび」があり、特に女性の場合、服薬拒否につながるため注意が必要です。体重への影響は、増加と減少の両方があるようです。長期的な副作用としては腎機能・甲状腺機能を低下させる場合があります。このため、服用中は定期的な採血が必要になります。しかし、リーマスの最も注意すべき副作用は中毒です。故意に大量に服用しなければまず安全ですが、下痢による脱水や、解熱鎮痛剤・ある種の降圧薬との併用などで、血中濃度が上昇し中毒を起こす可能性があります。運動失調やけいれん、意識障害、心機能抑制など重篤な中毒症状が起こりえますので、服用中の方は、適切な水分摂取(普通の生活なら問題ない)や併用薬に注意が必要です。

 バルプロ酸(デパケン・セレニカ)は、眠気やだるさを訴える方が比較的多いようですが、容量を徐々に上げれば次第に慣れが生じるようです。文献的には胃腸症状が副作用として最も頻度が高いようですが、当院ではあまり経験はありません。20%の方に体重増加が認められるという報告があります。毛髪変化・脱毛が見られることがありますが、多くは軽度で一過性のようです。爪がもろくなるような変化がまれに見られます。炭酸リチウムと違って、中毒をそれほど気にしないで使えるのは利点であり安全な薬と言えます。ただし、まれにですが重篤な副作用として、肝障害、高アンモニア血症、膵炎、造血障害などがあり、やはり、定期的な採血は必要です。

 カルバマゼピン(テグレトール)については、当院ではほとんど使用しないため省略します。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.13更新

 躁うつ病というのは、自信に満ちて活動的になる躁状態とその逆のうつ状態を繰り返す病気です。現在は正しくは双極性障害といいます。躁とうつの両極の間を気分が波のように変動するわけです。この気分の波の振幅を抑えるのが気分安定薬です。炭酸リチウム(商品名リーマス)、バルプロ酸(デパケン)、カルバマゼピン(テグレトール)などの薬があります。ちなみにバルプロ酸とテグレトールは元々てんかんの薬だったものに、気分安定作用が発見されたものです。たまに、自分で薬のことを調べて「てんかんじゃないのにてんかんの薬を出された」と不信感を持つ患者さんがいます。医師の説明が不十分なことが原因でしょうが、自己判断で中断せず、主治医にきちんと説明を求めてください。これらの薬のほかに、新規抗精神病薬のオランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)も気分安定薬としての作用が期待されています。双極性障害の場合、うつ状態のときも、抗うつ薬ではなく、気分安定薬が用いられます。ただし、躁状態には2週程度で効果が現れることが期待できるのに対して、うつ状態への効果発現は6週程度とより長くかかることがあるようです。

 躁状態が比較的軽度(軽躁状態)で、本人も周囲の人も病的と思わない双極性障害Ⅱ型という病気があります。軽躁状態では、自信が高まり、仕事を精力的にこなし、睡眠時間が短くてほとんど疲れを感じなくなります。平日に働きすぎて、休日はぐったり・・・などということもなく、プライベートも活発になります。しかし、社会的にひどく逸脱するような行為には走らないので、病気には見えないわけです。ですから、軽躁状態で受診するということはまずありません。双極性障害Ⅱ型の患者さんが受診するのは、うつ状態のときがほとんどです。そのうつ状態だけを見ると、はっきりとしたストレスに対する反応としての適応障害と思われることもあれば、単極性うつ病(いわゆるうつ病)と区別がつかない症状を示していることもあります。この場合、双極性障害であることを見逃して、抗うつ薬を投与してしまうと、なかなか治らないだけでなく、躁状態を誘発したり、将来的に気分の変動を激しくしてしまったり、などの有害なことが起こりえます。そこで、以前に軽躁状態と思われる時期があったかを問診で確認することが診断のために重要なのですが、これは意外と難しいことなのです。実際に、うつ病と診断された患者さんの3割程度がのちに双極性障害と診断し直されることが分かっています。うつ病の治療を長く受けているのに、なかなかよくならない場合、以前に軽躁状態と思われるエピソードがなかったかを、本人・家族・主治医で、もう一度話し合ったほうがいいかもしれません。抗うつ薬中心の処方から、気分安定薬中心の処方へ切り替えることで改善することもあります。

以上のように、気分安定薬は、主として、双極性障害に使われるわけですが、このほかには、統合失調症やパーソナリティ障害で気分の不安定さが目立つ症例に用いられることがあります。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

前へ
TEL:03-3243-2772
ご予約方法はこちら
footer_tel_sp.png
ご予約方法はこちら