2018.11.12更新

 精神科医というと人の心が分かるとか悩み事の解決が出来るとか、そういうイメージがあるのかもしれません。実際、失恋・不倫・夫婦不和・借金問題・セクハラ・パワハラ・・・など、さまざまな問題が診察室に持ち込まれます。診断分類には、ストレスが原因で起こる不安や抑うつに対して適応障害という病名が用意されているので、ストレスによる不調もやはり医療で扱うべき問題ではないかと思われてしまう面もあります。しかし本音を言うと、私達医者に出来るのは、病気の診断と治療であり、人生の問題を解決することが出来るわけではありません。「不倫相手との関係に悩んで気持ちが落ち込み眠れない・・・」と訴えられても困るのが正直なところです。その一方、心情的には、目の前に辛い思いをしている人がいるのに「それは医療の問題ではないのでお力にはなれません」と突っぱねるのもやりにくいことです。結局、辛い思いは共感的に受け止め、ストレスによる反応以外の病気が隠れていないかを確かめ、ご本人に「医者から見るとこういうことですよ」という説明を行います。その上で、ストレスの元になっている人生の問題自体は自分で解決するしかないこと、眠れないなどの症状には対症的に薬を出せるが薬が問題を解決することはないこと、どうしても仕事が出来ない状態なら休職診断書を書いて冷静になるための時間かせぎの手伝いはするが漫然と休むことには協力できない、などを伝えます。こんなことは、本当は本人も分かっているのでしょうが・・・。現代は医者しか頼れないという人が多いように感じます。

 それでも、やはり医者がきちんと診なければいけないケースが存在するのは事実です。一見「人生相談」のような問題の背後に、「病気」が隠れている場合がそれにあたります。例を挙げましょう。40代女性のAさんは、夫に連れられて受診しました。Aさんは「夫が浮気していると思う。確証はないが帰宅が遅くなったり、電話に出ないことがあったりするので怪しい。不安で何回も夫に電話をかけたり、泣いたりわめいたりしてしまう」というのです。ただ、Aさんの訴えは妄想といえるほどではないのです。困り果てた夫が別のクリニックに2軒ほど連れて行ったそうですが、1箇所でははっきりしたことは言われず、もう1箇所では「病気ではない。夫婦関係の問題だから治療できない」と言われたとのことでした。私も当初、「これは病気ではないのでは・・・」と感じたのですが、念のために細かくお話を伺ったところ、以前に軽躁状態(気分が高揚して自信に満ち、睡眠時間が短くても疲れず、活発に行動するが社会的な規範を超えてしまうことはないような状態)があったことが確認できました。そこで双極性障害が疑われることを伝えて、気分安定薬のバルプロ酸という薬を飲んでもらうことにしました。Aさんは病気であるという説明には半信半疑なようでしたが、服薬してくれました。1ヶ月くらいでAさんはかなり落ち着き、「夫の浮気のことも気にならなくなってきた」とこだわらなくなりました。ちなみに、夫が本当は浮気していたかどうか?ですが、それは迷宮入りですね。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.01更新

まずは事例から

<ケース1>

入社12年目のAさん(34歳、女性)。きっちりと仕事をこなす態度が評価され、工場内のチームリーダーに抜擢された。リーダーという役割に不安を覚えたAさんは、異動先の上司に相談したが、「そんなに難しい作業はないから大丈夫。」「期待しているよ。」と笑って答えるばかりであった。

異動後、新しい部署は忙しく、なかなか質問ができる雰囲気ではなかった。上司に相談しても、「ケースバイケースだから、上手いことやってよ。」としか答えてはもらえない。また、Aさんは、すぐに誰とでも打ち解けることができるほど、社交的な性格ではなかった。挨拶程度は特に問題なく行っていたが、不安な気持ちを話せる同僚もおらず、職場内で疎外感を感じていた。不慣れな業務でもたつく中、リーダーとしてチームをまとめていくことは困難を極めた。それでも、「せっかく期待してもらえているのだから」と、Aさんは頑張った。もともと几帳面で、完璧主義なところがあるAさんは、ミスをしたくないという恐れと、結果を出さなきゃいけないという焦りから、過度な緊張を強いられるようになっていた。

異動から1ヶ月後の5月、Aさんは疲弊していた。仕事のことを考えると夜も眠れず、睡眠不足が続き、日中、ぼーっとすることが多くなった。記憶力も落ち、ミスも増えた。ある日、Aさんの確認漏れによるミスが発覚した。幸い、大事には至らなかったが、周りのスタッフは、修正作業や報告書作成のため、残業を強いられた。Aさんは、皆の前で上司から厳しい叱責を受けた。

その後、Aさんから笑顔が消えた。服装にもだらしなくなり、以前の清潔感のあるAさんとは、別人のようであった。遅刻も増え、理由を訪ねてもボソボソとした声で、「すみません」と謝るばかりであった。

  

<ケース2>

 入社年6目のBさん(28歳、女性)は、4年ぶりに、入社時に在籍していた部署に戻ってきた。事業が拡大し、人手が足りなくなったため、業務に慣れたBさんに白羽の矢が立ったのである。新入社員の時に育ててくれた上司、頼もしい先輩、人間関係も良好であった部署である。仕事としても嫌いでなかったため、Bさんは内示が出たとき喜んだ。

 異動初日、Bさんは部署の変容に驚いた。業務はすべてシステム化され、帳票も従来のものから大きく変わっていた。慌てて上司に相談したところ、「最初は戸惑うかもしれないけど、Bさんは2年以上ここにいたんだし、基礎がわかっているから大丈夫。」と軽く流されてしまった。さらに、新入社員の頃は、いざとなったら先輩たちに助けてもらえるという安心感があったが、現在Bさんの立場は中堅社員。新人社員や派遣社員のフォローを行い、自ら引っ張っていくことが要求されていた。

 また、Bさんは3ヶ月前、離婚を経験していた。一人暮らしであるため、きちんとした食事を作ることが面倒となり、食事は、コンビニ弁当や菓子パンで済ませることが多くなっていた。そして、寂しさから飲酒量も増えた。

 時間が経つにつれ、Bさんの不満は膨らんでいった。相談しても、親身になって聞いてくれない上司、昔と比べ、あまりフォローしてくれない先輩。普通に考えれば、中堅社員であるBさんに対し、そこまで手厚い対応ができなくて当然なのだが、プライベートでも職場でも、心身ともに疲れていたBさんにはそれが分からなかった。ただ、イライラした気持ちを抱え、「なんで私ばっかりこんな目に」と周囲を恨み、飲酒量は更に増え、生活リズムを崩していった。

 しばらくすると、Bさんは原因不明の頭痛に悩まされるようになった。朝、身体が鉛のように重く、起き上がることすら出来ない日がでてきた。そしてだんだんと、会社を休みがちになっていった。

  

職場環境や役割が変わること=「環境変化」

昇進であっても「環境変化」はそれ自体が「ストレス」です。

 

1.新しい業務を覚えなければならない。

30代でも、新しいことを覚えるのは大変です。ましてや40代以上では・・・。

覚えるスピードは個人差が大きいです。そして、物覚えが早い人が真にいい仕事をするとも限らないはずだが、本人も周囲も「早く」を求めがち?

 

2.勤務者としての経歴はあるので、「全くの新人」としては扱われない。

「これぐらいのことは出来るよね」

「すぐに覚えられるよね」

「即戦力としてすぐに結果を出してね」

「同じことを何度も聞かないでよ」

 

3.新しい人間関係を作らなければならない。

よく知らない人たちの中に入れば当然慣れるまで緊張します。

たとえ「場所や人」は大きく変わらなくても、その集団の中での「役割」が変われば、新しい「人間関係」を作ることになります。

 

特にストレスが大きいケース

業務の量や質が大きく変わる場合。

「役割」が大きく変わる場合。初めての管理職とか。

周囲からの(無言の)期待が大きい場合。

プライベートの「環境変化が重なる場合」。転居、子どもの独立、離婚、肉親の死去・・・。

 

精神医学的な問題が背景にあるケース

・「うつ病」経験者。特に環境変化に弱い傾向がある。

・「社交不安障害」=人前緊張が激しい病気。相手からネガティブな評価を受けることを過度に恐れる。注目されたり、大勢の人の前で話をしなければならないことがストレスであるだけではなく、人に質問したり、指示したりする事もつらくなることがある。

・「発達障害」=空気を読んだり、言外の意味を解したりなどの社会的コミュニケーションが苦手なタイプ。一人で黙々と作業することは得意だが、部下を管理したり、他部署との交渉などが入ってくると、適応できなくなる。

 

管理職に必要な対応

職務変更に際して、あらかじめ早い時期に面談をして、不安な点などを良く聞いておく。
私生活上の大きな変化がなかったかもある程度把握しておく。
変化を乗り越えるには時間がかかることを保証してあげる。
どうしても即戦力を求めなければならないときは、必要なサポートを具体的に行う。問題を共有してあげる。
普段から、部署の雰囲気や相互の人間関係が良好で協力的なものになるように努めておく。(参考資料)
精神医学的背景が疑われるときは保健師・産業医に相談を。
 

 

 

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

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