うつ病(鬱病)

  • 気分が沈み、やる気が出ない状況が2週間以上ほぼ毎日続いている。
  • 食欲がなく、食べても美味しいと感じない。
  • 寝付けるが途中で目覚めたり、早朝目覚めてしまう。
  • 集中力・持続力が落ちた。新聞や、テレビを観ていても、頭に入らない。能率が上がらない。
  • 何をするにも臆刧で、疲れやすい、だるい・好きだったはずの事も楽しめない。

男性10%、女性25%!不眠と体のだるさに注意!!

何の数字か分かりますか?実はこれ、生涯でうつ病にかかる人の割合です。女性ではほぼ4人に一人の方が一生に一度はうつ病になるということです。これほど多い病気ですが、そのうち約40%の人は医療機関を受診していないという調査があります。さらに、そのうちで、正しい治療薬の投与を受けていた人は4分の1だったそうです。うつ病は自分で気づきにくい上、きちんと診断されない場合が多いということです。
気づくためのポイントは「うつ」という気分の変化ではなく、2週間以上続く不眠や体のだるさに注意しましょう。内科などで改善しなければ、精神科・心療内科を受診してください。
周囲の方は、仕事のスピードの低下・ミスが増える・食事量が減るといった変化に気をつけてください。

うつ病治療の落とし穴 抗うつ薬について  2週間では短いですよ!

うつ病治療の3本柱は、①抗うつ薬、②休養、③環境調整ですが、それぞれにポイント(落とし穴?)があります。今回から、3回連続で、1ずつ取り上げていきます。

まず、抗うつ薬について、ポイントは、十分量を十分な期間使う事!簡単そうですよね?でも、結構そうじゃないんです。1つの抗うつ薬を出した時、2週間以内に反応が見られる人も確かにいますが、もっと時間がかる人もいます。この場合、副作用チェックしながら増量していくのが正しいのですが、「よくならないから」と別の抗うつ薬を加えたり、薬を変更してしまったりする事があるのです。
この結果、十分量の薬が十分な期間使われず、治療が失敗に終わり、うつが遷延してしまう事があります。また、同時に何種類も薬を使ってしまうと、どの薬が本当に聞いたのかわからなくなりますし、副作用が出たときも原因薬剤を特定しにくくなり困ります。
内科の先生方はなかなか抗うつ薬を十分量まで増やせないようです。また、精神科・心療内科でも、明確な理由なく何種類もの抗うつ薬を同時に投与するところは気をつけた方が良いでしょう。

うつ病治療の落とし穴 休養について 「何もしない」は正しいの?

仕事をしながら治療をしている方もいらっしゃるでしょうが、今回は休職が必要となった場合を取りあげます。うつ病について書かれた本を見ると、よく「なにもしないこと」と書いてあります。本当でしょうか?確かに、急性期(症状が激しく、また、短期間に変化しやすい時期)は「なにもしない」が正解です。「規則正しい生活」も後回しで、とにかく休むことです。うつ病の患者さんは休むことに罪悪感を覚えることがあるので「休むことが仕事です」と説得せよと、これもよく書いてありますね。しかし、少し症状が和らいでくると「なにもしない」はかえって辛くなるようです。この時期をどう過ごすとよいのでしょうか?
私は①生活リズムの回復、②自分の感覚を大切にする、をお勧めしています。生活リズムが昼夜逆転などしてしまうと、回復にも遅れが出ますし、復職の際に苦労することになりかねません。生活リズムの回復のためには、まず、朝一定の時間に起きること。体内時計を調節しているメラトニンは起床時間によって分泌がコントロールされるので、ちゃんと朝起きないと夜に体が眠りに入る状態になれません。午前中に明るい光を浴びることも重要です。起きたら、歯磨き・洗面をして、窓際などで過ごすとよいでしょう。そして、3食とること。ただし、食欲が十分に回復していなければ、無理に「ちゃんとした食事」を採ることはありません。好きなもの、食べやすいものを少しでもおなかに入れる感じでよいのです。一日3回朝昼晩におなかに入れることが重要です。
自分の感覚を大切にするというのは、例えば次のようなことです。
患者Aさん「散歩ぐらいしてもいいでしょうか?」
私「ちょっとは歩かないと、足が弱ってしまうようで心配ですか?」
患者Aさん「ええ」
私「本当はどういう感じですか?歩きたいと思いますか?それとも『散歩ぐらいしなければいけない』、という義務感みたいな感じ?」
患者Aさん「義務感に近いです」
私「それじゃ、やめてください。歩くこと自体がいいとか悪いとかではないんです。『今日は、ちょっと歩けそうだ、歩いてみようかな』、と思えればやってください。逆に、『~しなければいけない』、と考えてやるのはうつ病を悪くしますよ。ただし、まだまだ疲れやすいですから、疲れを感じたら休むようにしてください」

うつ病治療の落とし穴 環境調整 「励まさない」は正しいの?

環境調整といっても、その要は家族や職場の方々、つまり人間です。ですから、周囲の方が患者さんにどう接するかということと切り離せません。患者さんの訴え、特に悲観的な言動や、時にいらいらした態度にどう応えればよいのでしょう。私は、まず周囲の方が力を抜くことが大切だと思います。うつ病について熱心に知識を集めるのはよいのですが、「励ましてはいけない」とか、そういうお題目だけに縛られるようでは力の入りすぎで、不自然になってしまいます。うつ病という病気であること、休養が大切であること、回復には時間がかかること、一進一退のような波があること、誰よりも不安なのは患者さん本人であること、これらを頭に入れて、普通の病気の人に対するのと同じように対応すればよいのです。そうすれば自然と、休養が必要な人に「がんばれ」とは言えなくなるでしょう。あとは、ちょっとしたコツである「反射の技法(本人の言葉を繰り返す)」を使えばよいのです。 患者さんA「私にはこの会社でやっていく能力がありません」 上司Bさん「何を言っているんだ、そんな弱音を吐かずに頑張れ」× 上司Cさん「自分の能力に自信がなくなり不安なんだね」○ その上で、「今は病気だから、力が出せないだけ。しっかり治せばいいんだ。私は治ると信じている」と励まして?もよいでしょう。 環境調整のポイントを挙げると、「環境を変えるときには、時間をかける。段階的に行う」ということです。うつ病の患者さんは環境の変化に適応することが苦手です。発病時の部署が忙しいからといって、復職時に安易に異動を行うことは勧められません。特別な理由がなければ、一旦元の職場に戻し、業務負担を軽減して、時期を見て異動とした方がよいでしょう。「不調になった時の部署に来る前に、何年かやっていた部署なら本人も慣れているはずだ」と考えやすいのですが、現代の変化の激しい状況では、仕事の内容ややり方が以前とは変わっている場合も多く、「前にできた所でもできないなんて、やっぱり俺はだめだ・・・」などと思い込ませる結果にもなりかねません。 休んでいた生活から、出勤する生活への変化自体にエネルギーをとられるので、当初、業務にかけられるエネルギーは健康なときの5割程度と考えるべきです。もちろん出勤する生活に慣れてくれば、徐々に業務にかけられるエネルギーを増やしていけるでしょう。こういったことから、初めの2週間は半日出勤からはじめるなどの段階的復帰が望ましいわけです。ご本人にも事前に十分こうしたことを説明しておくことが大切です。

うつ病治療の落とし穴 うつ病もイロイロですよ!

あれこれと取り上げてきましたが、今回でうつ病シリーズは終了です。最後の話題はうつ病の診断についてです。「うつ病は増えている」「自殺者の大半がうつ病だった」といった報道がなされ、社会的にもうつ病は関心をもたれています。現在、世界的に使用されている診断基準は、WHOによるICD-10とアメリカ精神医学会によるDSM-ⅣTRですが、どちらも「どのような症状がどのくらいの期間持続しているか。また、そのような症状がいくつそろっているか」という操作的診断と言われるものです。簡単に言うと、こういう症状がありますか?と、当てはまるものに○をつけて、最終的に○の数がそろえばうつ病という感じです。原因ではなく症状による分類なのです。この診断基準が一見アンケートみたいに誰でもチェックできそうな印象を与えるためか、最近は自分でチェックして「自分はうつ病だ」と決め付けてしまうような方もいらっしゃいます。企業の方と話していると、「うつ病という診断書を振りかざして休みを要求する若い子がいるが、よく喋るし、他罰的で全然自責感なんて感じられない。ホントにうつ病なのかしら?」といった疑問の声をよく聴きます。「自分はうつ病だから頑張れない」と主張し、従業員として当然果たすべき義務を免除させろという事らしいのです。こういうタイプの「うつ病」と、古典的な(?)、几帳面で責任感が強く、なかなか休めないタイプの「うつ病」は、果たして同じものなのでしょうか? Aさん:50代男性。実直なタイプ。特に、直接業績として評価されないような雑務的な仕事を率先してやってくれるので同僚からの評価は良い。しかし、ここ数年会社が業績至上主義的な経営方針に変わり、最近は上司から数字を上げられない事でたびたびイヤミに近い叱責を受けるようになった。それでも、頑張ってやってきたが、2ヶ月前頃から、抑うつ気分・不眠・食欲低下・集中困難・意欲低下が出現し、妻に勧められ受診となった。治療上休むことを勧めるが「今はとても休める状況でない」と拒否される。 Bさん:20代男性。自信家であるが、他人の評価に敏感で些細なことで傷つきやすい面も持つ。2年前に就職したが、「上司が有能でなく、指示通りに仕事をするとうまくいかない」「そのくせ、自分のやり方を認めてくれない」と訴える。最近では、その上司と顔を合わせるのもイヤで出社することが苦痛になってきた。抑うつ気分・不眠・食欲低下・集中困難・意欲低下が出現し、受診となった。「しばらく会社を休みたいので、診断書を書いて欲しい」と要求する。 Aさんは典型的な「うつ病」です。Bさんも症状だけを見ると確かに「うつ病」ということになってしまうのです。しかし、この2人が同じ病気とは考えにくいのではないでしょうか。実際、Bさんのようなタイプに「うつ病」という診断をつけることに抵抗を感じる医師もたくさんいます。このBさんのような性格傾向を自己愛性パーソナリティ傾向といい、最近若い人で「うつ」を訴えて受診される方に少なからず認められるものです。実は、実際の診断は症状のみでなく、その人のパーソナリティや心理社会的または環境的要因をすべて考慮してなされるのです。そうすると、AさんもBさんも「うつ病」という診断基準にあてはまるけれども、パーソナリティや環境を考慮すると、この2人の「うつ病」には違う面があるということになります。「うつ病」もイロイロというのはそういうことです。これは治療にも関わってきます。Aさんの「うつ病」は休養と服薬と環境調整で改善が期待できますが、Bさんの場合は自己愛的な「パーソナリティの偏り」が背景にありますから、この点に何らかのアプローチを工夫しないとうまくいかないのです。

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