2014.12.24更新

 

基本的な理解
高い所が怖い、狭い所が怖い、尖った物が怖い、雷が怖い、人前で緊張することが怖い、赤面するのが怖い、手が震えるのが怖い、汗が吹き出るのが怖い、電車の中で大便が漏れることが怖い、パニック発作が怖い、吐いてしまうことが怖い・・・いろいろな恐怖症があります。
怖いもののテーマは様々だが、すべてに共通することが2つあります。一つは、落ち着いている時に冷静に考えれば、不安・恐怖が「過剰」つまり「行き過ぎている」ということ。もう一つは「回避行動」つまり「症状のせいで何かから逃げるという行動」が発展することです。

 

このような病気はどのように生じるのでしょうか?「不安を感じやすい身体的要因」と「不安と回避の悪循環的学習」という側面を理解することが大切です。最初の症状出現は、いくつかの条件が偶然重なって起こるようです。例えば、仕事が忙しくてストレスがたまっていた、睡眠不足だった、昨夜飲み過ぎた、遅刻しそうで走って電車に飛び乗った、などの状況で初めてのパニック発作(激しい不安発作)を経験します。

 

その経験が、あまりにも不快で辛い体験であったため、「また発作が起こったらどうしよう」という予期不安が高まります。その結果、発作が起こったら困る状況を避けるようになり、「ちょっとドキドキしたけど、電車を降りたから発作にならず助かった」というような回避行動による一時的な不安の軽減という学習を繰り返してしまいます。すると「逃げ癖」がついて、さらに回避行動が発展し、その結果、症状に対する不安は一層強くなっていきます。いざ回避できなくなったときに耐えられなくなってしまい、患者さんはますます自信を失います。これが悪循環的学習です。

 

そもそも、不安や恐怖という感情はなぜ存在するのでしょう?それは、動物が天敵等の危険に遭遇した際に、逃げるか戦うかという非常事態に適応するための警報と考えられています。これは自律神経の一つである交感神経の働きです。〇〇恐怖のような症状は、本来は危険ではないものに対して、「危険である」という誤った認識が脳の中で成立してしまい、それが回避行動という誤った対処法によって強化・維持されたものといえます。安全が確保されているはずの高い所が、高所恐怖の人の脳の中では「危険」であり、パニック障害の患者さんの脳の中では電車の中が「危険」、赤面恐怖の人の脳の中では、何でもない社交場面が「危険」というわけです。

 

不安を感じやすい身体的要因とはなにか?

脳の中には不安を感じる神経回路が存在します。その回路が不安定になることで誤作動が生じやすくなると、本来危険ではないものに対する恐怖反応が起こりやすくなります。身体的要因には以下のものがあります。
・遺伝的な要因
・睡眠不足、不規則な生活
・疲労、ストレス
・運動不足
・風邪などのちょっとした不調
・アルコール
・ニコチン
・カフェイン
・違法ドラッグ、脱法ドラッグ
・うつ病、双極性障害などの精神疾患

 

回避行動とはなにか?

患者さんが症状から逃げようとして行う行動のすべてが回避行動です。辛い症状から逃げたくなるのは人情であり自然なことです。

しかし、〇〇恐怖というのは、本来は危険ではないものに対する過剰な不安・恐怖反応が誤って脳の中で学習されてしまったものであり、回避によって「本当は脅威ではない」という再学習が出来なくなってしまうという点がポイントなのです。回避行動には分かりやすいものと分かりにくいものがあります。
パニック発作の患者さんが電車を避けるのは分かりやすい回避、電車に乗るときにドアの側から離れず奥の方に行かないのは分かりにくい回避です。赤面恐怖の人が、人を避けるのは分かりやすい回避、社交場面で酔ってしまおうとするのは分かりにくい回避です。雷恐怖の人が雷雲を避けるのは分かりやすい回避、雷情報を過剰に閲覧するのは分かりにくい回避です。そして、恐ろしいことに、抗不安薬を頓服で使うという「治療行為」でさえ、使い方を誤ると、もっとも分かりにくく止めにくい回避行動になってしまうということなのです(薬自体の依存性ももちろん問題です)!

 

どんな治療を行ったとしても、回避行動がある限りは本当の意味では病気は治りません。回避行動を徹底的に止めて行く事がどうしても必要です。これは人情に反した、不自然な行動です。こんなことを好んでする人間はいません。だから、回避行動を止めていくためには、医者患者間の信頼関係が重要であり、患者さん自身の強いモチベーションが必須となります。治療者や薬任せでは絶対に治りません!

 

治療方針

まずは、以上のことを良く理解することです。本来は危険でないものを脅威と認識して、不安回路が誤作動を起こし、交感神経の過緊張が症状を引き起こしていること。そして、さらに重要なことは、症状から逃げようとする回避行動が病気を維持・悪化させているという事実を理解してください。

次に、身体的要因を極力無くすことです。
・規則正しい生活、7時間以上の睡眠
・アルコールは原則摂らない、カフェイン、ニコチンの摂取は出来るだけ減らす
・違法、脱法に関わらずドラッグは絶対にダメ
・運動習慣を作る ウオーキング1日8000歩以上
そして、交感神経に対抗する副交感神経を刺激するリラクゼーション技術を身につけてください。腹式呼吸法がお勧めです。

その上で、回避行動を少しずつ止めていくことに最大限の努力をしてください。やり方の相談は医者にしてください。抗不安薬の頓服は、薬以外の回避行動を止めていくためだけに使うことが必要です。ただ、その場の症状から逃れるために使うのであれば、「治療行為」が本当の意味では治療ではなく、病気を維持・悪化させてしまうという皮肉な結果になってしまいます。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2014.12.08更新

 

生活習慣病としての気分障害③

うつ病や双極性障害といったいわゆる気分障害と現代人の生活習慣との関係について書いてきましたが、最終回として飲酒のことを取り上げたいと思います。
結論から言ってしまうと、酒は気分障害の治療には有害です。いくつかの理由がありますので整理してみましょう。

 

①睡眠の質を悪化させることを介して
アルコールは寝つきを良くする作用は確かにありますが、深い睡眠を維持することにはマイナスに働きます。途中で目が覚めたり、浅い眠りになったりしてしまいます。睡眠が悪化すれば、うつ病や双極性障害になりやすいことは統計的な研究から明らかにされており、不眠症患者では健常者に比べて約2倍気分障害になりやすいことが分かっています。

 

②アルコールの直接作用として
アルコールは一時的には酔いという体験をもたらしますが、それとは別に習慣的に摂取すると、神経系への直接的な作用として、抑うつや気分変動をもたらす可能性があります。これは酔いとは別な減少で、飲酒後の数時間に限られるわけではなく、むしろ、酔っている時には目立たなくなることがあります。そのため、アルコールと気分の悪化を結び付けられずに、自己治療として飲酒して、さらに悪循環に陥ることがあります。

 

③治療薬の効果を減弱すし、副作用を出しやすくする
アルコールは上記の①、②の作用により、治療薬の効果を弱める可能性がある上に、薬物代謝を促進して、必要な薬の血液中の濃度を落としてしまう可能性もあります。また、中枢神経を抑制するような副作用が強く出てしまう可能もあります。

 

有害なことは分かっても、酒が唯一の楽しみだから止めたくないとおっしゃる方もいます。もっともなことと思います。唯一の楽しみを奪われたら大変ですから。しかし、ご本人も本当は心の奥で酒に頼る生き方は良くないと思っているものです。単に楽しみを我慢するというより、積極的に他の支えを見つけることが必要かもしれません。

 

実際の治療で困るのは、仕事上の酒の付き合いをどうするかということです。最初から飲めないというイメージがついている人ではなく、それまでよく飲んでいた人だと周囲への説明も大変です。メンタルの病気を隠したい場合は、「肝臓の数字が悪くなった」「尿酸が高くて医者から控えろと言われた」など身体的な理由を嘘でもいいので使うようにアドバイスしています。完全に飲まないということがやりにくい場合は、「乾杯の1,2杯だけにしてあとはノンアルコールで」というアドバイスもしています。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

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