2018.11.15更新

 今回は、水島広子先生の対人関係療法の著書を引用しながら、「気持ちを話せない悪循環から抜け出す」というテーマでお届けします。

 頭痛、腹痛、下痢、動機、めまい、過食、拒食など・・・身体的には異常がないにも関わらず、ストレスにより体に症状を現れることがあります。表に見えている症状は様々ですが、このような症状が出る人の特徴の1つとして、「気持ちを話すのが苦手」という共通点があります。

 自分の気持ちを話せない人の不安は、主に3つあります。

①自分の気持ちが他人からどう思われるかという不安

 嫌われるのではないか、ダメな人間だと思われるのではないか、などと考えると、なかなか自分の気持ちを打ち明けにくくなります。

②自分の気持ちを話すことによって起こるトラブルを怖れる気持ち

 「いい人」でいようとする人は、他人からどう思われるかという不安を持っているのと同時に、人間関係での対立が怖い、と感じます。人と意見を闘わせることによって問題を乗り越えたり、深い関係をつくった経験がないので、「意見の対立=関係の崩壊」と考えてしまうのです。自分の意見を言うことが生産的な意味を持つというイメージがうまくわきません。身近な人からそのようなプラス例を学んだことがないという人がほとんどです。

③自分の気持ちを打ち明けることで、人との距離が近くなるのが怖い

 人との距離が近くなって「本当の自分」を知られてしまうと嫌われるのではないか、という①の不安に近いものです。

 

 さて気持ちを話さない結果としてどのようなことが起こるのでしょうか。まず、「相手にどう思われるか」を気にして気持ちを言わないと、相手は「本音を言ってくれない、自分と親しくなることに関心のない人」、「つまらない」などという目で見られることになり、必ずしもプラスの効果を生むわけではありません。人間は、相手に点数をつけるために人と関わるのではなく、親しくなって人間関係を楽しみたいから関わることが一般的です。ですから、「完璧な人」よりも「欠点も含めて人間味のある人」の方が好かれる場合が多いのです。

また、対立を避けるという姿勢ですが、相手と気持ちを話し合ったからといって必ずしも争いになるわけではなく、むしろ関係性を深めることになります。説明が不十分なほうが誤解されて対立につながるということもあります。本当の意味で対立を避けたければ、「対立を避けたい」という自分の気持ちを正直に話した方がよいのです。ちゃんと本心を言い合ってお互いを知ると同時に、「相手は本当のことを言ってくれている」という信頼関係を築いていくのが人と親しくなるということです。

「気持ちを話すと相手に振り回される」という考えも、実は全く逆で、自己主張をしていかないと人のペースに振り回されるばかりです。

このように、気持ちを話すことの意味をしっかり意識して人とのコミュニケーションを進めていくことが第一歩になります。

 そして、「私は~思う、~感じる、~したい」という自分の気持ちを、日々確認する必要があります。日記をつけてみたり、「私はどう思ったんだろう?」と、自問自答してみるのも良いかもしれません。気持ちが確認できるようになれば、伝えることの実践です。相手を批判したり、責める印象にならないためには、「あくまで自分の気持ちである」というニュアンスを伝える必要があります。「私は」を主語にして、自分の気持ちを表現してみましょう。このようなことを実践していく中で、相手との信頼関係が深まる過程を体験できます。その繰り返しで、自分の気持ちを話すことの心地よさ、大切さを実感していただきたいと思います。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.15更新

 私は「うつ病」という診断を非常に狭くとる医者です。DSMの大うつ病エピソードを一見満たしていても、「食事がおいしい」とか「もしも今の環境を変えることができれば、〇〇する自信がある」とか「自分のセールスポイントそれ自体は失われていない」とか言うケースでは「うつ病」と診断することにかなり慎重になります。ただし、その場合でも症状の重さに応じて抗うつ薬は使用しますが。
 なぜ、こんなことを書いているかと言うと、以前ちょっと診断に迷った「うつ病」患者を経験したからです。
 その人は50代の男性で、職場には明らかな誘因はなく、家庭には大きなストレス因がありました。妻との関係がずっと悪いと言うのです。理由は?との私の質問に「自分の浮気です」とあっさり語る初老の男性。しかも、そのバレた浮気は数年前で、今は別の女性と2度目?の浮気をしているとのこと。私は違和感を覚えました。「秩序を重んじ、組織や家庭との一体感を優先する.」という「うつ病」のタイプから外れているように感じたからです。それでも、過去に軽躁状態と思われるエピソードもありませんし、症侯学的には「うつ病」なので仕方ありません。診断基準には「浮気している者は除く」なんてありませんから。
 結局、抗うつ薬の治療で比較的順調に回復しました。私がやはり「うつ病」で良かったと確認できたのは、自宅とクリニックは比較的遠方であったのに予約通りにきちんと通院してくれたことと、何よりも、復職訓練として指示した図書館模擬出勤などを真面目にこなし、生活記録表も几帳面な字でしっかり記入してくれた彼の律義さ・几帳面さ(ある種の強迫性)からです。
 先日、ある先生の講演を聞き、現代型うつ病(流行りの新型うつではありません)という概念を再確認できました。うつ病患者さんの「強迫性を伴う組織への一体化願望」を現代の会社は抱えることができなくなったために、職場では強迫的に仕事をこなすことをあえて避けて、私生活では強迫性を示すというタイプで、軽傷ではあるが内因性うつ病、なんだそうです。上の患者さんも、家庭では「うつ病」患者らしからぬ夫ですが、おそらく職場・仲間内・浮気相手の前?では「うつ病」患者さんらしさを保っているのだろうなと推察されます。夫婦間に何があったのかは知りませんが、彼の奥さんは彼の「一体化願望」を抱えられなった人なのかもしれませんね。決して、浮気を肯定している訳ではありませんので、念のため。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.14更新

前回は双極性障害の治療薬である気分安定薬について書きました。今回はそれらの副作用についてです。

炭酸リチウム(リーマス)は、通常使用量では眠気やふらつきなどはほとんど生じません。その意味では飲みやすい薬です。比較的良く見られる副作用は、手の振るえと下痢です。手の振るえは激しくはないのですが、時に作業に支障が出る場合があります。薬を減らすことで対応できない場合は、β遮断薬という薬で軽減することが出来ます。下痢は、ほとんどの人では問題になりませんが、まれに薬をかなり減らさないと治まらない方がいます。吐き気も頻度は多くないですが、時に見られる副作用です。美容上問題となる副作用として「にきび」があり、特に女性の場合、服薬拒否につながるため注意が必要です。体重への影響は、増加と減少の両方があるようです。長期的な副作用としては腎機能・甲状腺機能を低下させる場合があります。このため、服用中は定期的な採血が必要になります。しかし、リーマスの最も注意すべき副作用は中毒です。故意に大量に服用しなければまず安全ですが、下痢による脱水や、解熱鎮痛剤・ある種の降圧薬との併用などで、血中濃度が上昇し中毒を起こす可能性があります。運動失調やけいれん、意識障害、心機能抑制など重篤な中毒症状が起こりえますので、服用中の方は、適切な水分摂取(普通の生活なら問題ない)や併用薬に注意が必要です。

 バルプロ酸(デパケン・セレニカ)は、眠気やだるさを訴える方が比較的多いようですが、容量を徐々に上げれば次第に慣れが生じるようです。文献的には胃腸症状が副作用として最も頻度が高いようですが、当院ではあまり経験はありません。20%の方に体重増加が認められるという報告があります。毛髪変化・脱毛が見られることがありますが、多くは軽度で一過性のようです。爪がもろくなるような変化がまれに見られます。炭酸リチウムと違って、中毒をそれほど気にしないで使えるのは利点であり安全な薬と言えます。ただし、まれにですが重篤な副作用として、肝障害、高アンモニア血症、膵炎、造血障害などがあり、やはり、定期的な採血は必要です。

 カルバマゼピン(テグレトール)については、当院ではほとんど使用しないため省略します。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.13更新

 躁うつ病というのは、自信に満ちて活動的になる躁状態とその逆のうつ状態を繰り返す病気です。現在は正しくは双極性障害といいます。躁とうつの両極の間を気分が波のように変動するわけです。この気分の波の振幅を抑えるのが気分安定薬です。炭酸リチウム(商品名リーマス)、バルプロ酸(デパケン)、カルバマゼピン(テグレトール)などの薬があります。ちなみにバルプロ酸とテグレトールは元々てんかんの薬だったものに、気分安定作用が発見されたものです。たまに、自分で薬のことを調べて「てんかんじゃないのにてんかんの薬を出された」と不信感を持つ患者さんがいます。医師の説明が不十分なことが原因でしょうが、自己判断で中断せず、主治医にきちんと説明を求めてください。これらの薬のほかに、新規抗精神病薬のオランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)も気分安定薬としての作用が期待されています。双極性障害の場合、うつ状態のときも、抗うつ薬ではなく、気分安定薬が用いられます。ただし、躁状態には2週程度で効果が現れることが期待できるのに対して、うつ状態への効果発現は6週程度とより長くかかることがあるようです。

 躁状態が比較的軽度(軽躁状態)で、本人も周囲の人も病的と思わない双極性障害Ⅱ型という病気があります。軽躁状態では、自信が高まり、仕事を精力的にこなし、睡眠時間が短くてほとんど疲れを感じなくなります。平日に働きすぎて、休日はぐったり・・・などということもなく、プライベートも活発になります。しかし、社会的にひどく逸脱するような行為には走らないので、病気には見えないわけです。ですから、軽躁状態で受診するということはまずありません。双極性障害Ⅱ型の患者さんが受診するのは、うつ状態のときがほとんどです。そのうつ状態だけを見ると、はっきりとしたストレスに対する反応としての適応障害と思われることもあれば、単極性うつ病(いわゆるうつ病)と区別がつかない症状を示していることもあります。この場合、双極性障害であることを見逃して、抗うつ薬を投与してしまうと、なかなか治らないだけでなく、躁状態を誘発したり、将来的に気分の変動を激しくしてしまったり、などの有害なことが起こりえます。そこで、以前に軽躁状態と思われる時期があったかを問診で確認することが診断のために重要なのですが、これは意外と難しいことなのです。実際に、うつ病と診断された患者さんの3割程度がのちに双極性障害と診断し直されることが分かっています。うつ病の治療を長く受けているのに、なかなかよくならない場合、以前に軽躁状態と思われるエピソードがなかったかを、本人・家族・主治医で、もう一度話し合ったほうがいいかもしれません。抗うつ薬中心の処方から、気分安定薬中心の処方へ切り替えることで改善することもあります。

以上のように、気分安定薬は、主として、双極性障害に使われるわけですが、このほかには、統合失調症やパーソナリティ障害で気分の不安定さが目立つ症例に用いられることがあります。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.12更新

 精神科医というと人の心が分かるとか悩み事の解決が出来るとか、そういうイメージがあるのかもしれません。実際、失恋・不倫・夫婦不和・借金問題・セクハラ・パワハラ・・・など、さまざまな問題が診察室に持ち込まれます。診断分類には、ストレスが原因で起こる不安や抑うつに対して適応障害という病名が用意されているので、ストレスによる不調もやはり医療で扱うべき問題ではないかと思われてしまう面もあります。しかし本音を言うと、私達医者に出来るのは、病気の診断と治療であり、人生の問題を解決することが出来るわけではありません。「不倫相手との関係に悩んで気持ちが落ち込み眠れない・・・」と訴えられても困るのが正直なところです。その一方、心情的には、目の前に辛い思いをしている人がいるのに「それは医療の問題ではないのでお力にはなれません」と突っぱねるのもやりにくいことです。結局、辛い思いは共感的に受け止め、ストレスによる反応以外の病気が隠れていないかを確かめ、ご本人に「医者から見るとこういうことですよ」という説明を行います。その上で、ストレスの元になっている人生の問題自体は自分で解決するしかないこと、眠れないなどの症状には対症的に薬を出せるが薬が問題を解決することはないこと、どうしても仕事が出来ない状態なら休職診断書を書いて冷静になるための時間かせぎの手伝いはするが漫然と休むことには協力できない、などを伝えます。こんなことは、本当は本人も分かっているのでしょうが・・・。現代は医者しか頼れないという人が多いように感じます。

 それでも、やはり医者がきちんと診なければいけないケースが存在するのは事実です。一見「人生相談」のような問題の背後に、「病気」が隠れている場合がそれにあたります。例を挙げましょう。40代女性のAさんは、夫に連れられて受診しました。Aさんは「夫が浮気していると思う。確証はないが帰宅が遅くなったり、電話に出ないことがあったりするので怪しい。不安で何回も夫に電話をかけたり、泣いたりわめいたりしてしまう」というのです。ただ、Aさんの訴えは妄想といえるほどではないのです。困り果てた夫が別のクリニックに2軒ほど連れて行ったそうですが、1箇所でははっきりしたことは言われず、もう1箇所では「病気ではない。夫婦関係の問題だから治療できない」と言われたとのことでした。私も当初、「これは病気ではないのでは・・・」と感じたのですが、念のために細かくお話を伺ったところ、以前に軽躁状態(気分が高揚して自信に満ち、睡眠時間が短くても疲れず、活発に行動するが社会的な規範を超えてしまうことはないような状態)があったことが確認できました。そこで双極性障害が疑われることを伝えて、気分安定薬のバルプロ酸という薬を飲んでもらうことにしました。Aさんは病気であるという説明には半信半疑なようでしたが、服薬してくれました。1ヶ月くらいでAさんはかなり落ち着き、「夫の浮気のことも気にならなくなってきた」とこだわらなくなりました。ちなみに、夫が本当は浮気していたかどうか?ですが、それは迷宮入りですね。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.11.01更新

まずは事例から

<ケース1>

入社12年目のAさん(34歳、女性)。きっちりと仕事をこなす態度が評価され、工場内のチームリーダーに抜擢された。リーダーという役割に不安を覚えたAさんは、異動先の上司に相談したが、「そんなに難しい作業はないから大丈夫。」「期待しているよ。」と笑って答えるばかりであった。

異動後、新しい部署は忙しく、なかなか質問ができる雰囲気ではなかった。上司に相談しても、「ケースバイケースだから、上手いことやってよ。」としか答えてはもらえない。また、Aさんは、すぐに誰とでも打ち解けることができるほど、社交的な性格ではなかった。挨拶程度は特に問題なく行っていたが、不安な気持ちを話せる同僚もおらず、職場内で疎外感を感じていた。不慣れな業務でもたつく中、リーダーとしてチームをまとめていくことは困難を極めた。それでも、「せっかく期待してもらえているのだから」と、Aさんは頑張った。もともと几帳面で、完璧主義なところがあるAさんは、ミスをしたくないという恐れと、結果を出さなきゃいけないという焦りから、過度な緊張を強いられるようになっていた。

異動から1ヶ月後の5月、Aさんは疲弊していた。仕事のことを考えると夜も眠れず、睡眠不足が続き、日中、ぼーっとすることが多くなった。記憶力も落ち、ミスも増えた。ある日、Aさんの確認漏れによるミスが発覚した。幸い、大事には至らなかったが、周りのスタッフは、修正作業や報告書作成のため、残業を強いられた。Aさんは、皆の前で上司から厳しい叱責を受けた。

その後、Aさんから笑顔が消えた。服装にもだらしなくなり、以前の清潔感のあるAさんとは、別人のようであった。遅刻も増え、理由を訪ねてもボソボソとした声で、「すみません」と謝るばかりであった。

  

<ケース2>

 入社年6目のBさん(28歳、女性)は、4年ぶりに、入社時に在籍していた部署に戻ってきた。事業が拡大し、人手が足りなくなったため、業務に慣れたBさんに白羽の矢が立ったのである。新入社員の時に育ててくれた上司、頼もしい先輩、人間関係も良好であった部署である。仕事としても嫌いでなかったため、Bさんは内示が出たとき喜んだ。

 異動初日、Bさんは部署の変容に驚いた。業務はすべてシステム化され、帳票も従来のものから大きく変わっていた。慌てて上司に相談したところ、「最初は戸惑うかもしれないけど、Bさんは2年以上ここにいたんだし、基礎がわかっているから大丈夫。」と軽く流されてしまった。さらに、新入社員の頃は、いざとなったら先輩たちに助けてもらえるという安心感があったが、現在Bさんの立場は中堅社員。新人社員や派遣社員のフォローを行い、自ら引っ張っていくことが要求されていた。

 また、Bさんは3ヶ月前、離婚を経験していた。一人暮らしであるため、きちんとした食事を作ることが面倒となり、食事は、コンビニ弁当や菓子パンで済ませることが多くなっていた。そして、寂しさから飲酒量も増えた。

 時間が経つにつれ、Bさんの不満は膨らんでいった。相談しても、親身になって聞いてくれない上司、昔と比べ、あまりフォローしてくれない先輩。普通に考えれば、中堅社員であるBさんに対し、そこまで手厚い対応ができなくて当然なのだが、プライベートでも職場でも、心身ともに疲れていたBさんにはそれが分からなかった。ただ、イライラした気持ちを抱え、「なんで私ばっかりこんな目に」と周囲を恨み、飲酒量は更に増え、生活リズムを崩していった。

 しばらくすると、Bさんは原因不明の頭痛に悩まされるようになった。朝、身体が鉛のように重く、起き上がることすら出来ない日がでてきた。そしてだんだんと、会社を休みがちになっていった。

  

職場環境や役割が変わること=「環境変化」

昇進であっても「環境変化」はそれ自体が「ストレス」です。

 

1.新しい業務を覚えなければならない。

30代でも、新しいことを覚えるのは大変です。ましてや40代以上では・・・。

覚えるスピードは個人差が大きいです。そして、物覚えが早い人が真にいい仕事をするとも限らないはずだが、本人も周囲も「早く」を求めがち?

 

2.勤務者としての経歴はあるので、「全くの新人」としては扱われない。

「これぐらいのことは出来るよね」

「すぐに覚えられるよね」

「即戦力としてすぐに結果を出してね」

「同じことを何度も聞かないでよ」

 

3.新しい人間関係を作らなければならない。

よく知らない人たちの中に入れば当然慣れるまで緊張します。

たとえ「場所や人」は大きく変わらなくても、その集団の中での「役割」が変われば、新しい「人間関係」を作ることになります。

 

特にストレスが大きいケース

業務の量や質が大きく変わる場合。

「役割」が大きく変わる場合。初めての管理職とか。

周囲からの(無言の)期待が大きい場合。

プライベートの「環境変化が重なる場合」。転居、子どもの独立、離婚、肉親の死去・・・。

 

精神医学的な問題が背景にあるケース

・「うつ病」経験者。特に環境変化に弱い傾向がある。

・「社交不安障害」=人前緊張が激しい病気。相手からネガティブな評価を受けることを過度に恐れる。注目されたり、大勢の人の前で話をしなければならないことがストレスであるだけではなく、人に質問したり、指示したりする事もつらくなることがある。

・「発達障害」=空気を読んだり、言外の意味を解したりなどの社会的コミュニケーションが苦手なタイプ。一人で黙々と作業することは得意だが、部下を管理したり、他部署との交渉などが入ってくると、適応できなくなる。

 

管理職に必要な対応

職務変更に際して、あらかじめ早い時期に面談をして、不安な点などを良く聞いておく。
私生活上の大きな変化がなかったかもある程度把握しておく。
変化を乗り越えるには時間がかかることを保証してあげる。
どうしても即戦力を求めなければならないときは、必要なサポートを具体的に行う。問題を共有してあげる。
普段から、部署の雰囲気や相互の人間関係が良好で協力的なものになるように努めておく。(参考資料)
精神医学的背景が疑われるときは保健師・産業医に相談を。
 

 

 

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.10.31更新

抗不安薬について。抗不安薬は、その名のとおり、不安・緊張を抑える薬です。代表的なものにベンゾジアゼピン系薬物(BZP)があります。その他、作用機序がBZPと異なるものとして、セロトニン1A作動薬のセディール、抗ヒスタミン薬であるアタラックスなどがあります。セディールは効果発現に時間がかかるが副作用が少ないことから軽症・高齢の方に使われるようです。アタラックスは最近の先生方はあまり使わないようです。BZPはパニック障害をはじめとする各種の不安障害や不安症状の強いうつ病の場合などに用いられます。BZPは効果発現が早く、患者さんは服用して効いたという感じが得られやすい薬です。パニック発作のような強い不安感に襲われたときに、薬を飲めば落ち着くということは確かに利点です。また、うつ病の治療では抗うつ薬が主体であることは当然なのですが、一般に抗うつ薬は患者さんが効果を実感できるようになるのに日数がかかるので、初めのうちは、BZPで不安を抑えてあげると患者さんが治療から脱落しにくいと言われています。一方で、BZPの副作用としては、眠気、脱力感・ふらつき、集中力低下などが多いようです。特に、高齢の方は、ふらつきから転倒して骨折などが起こりえますので、投与に注意が必要です。また、集中力の低下から、記憶力低下のような症状を示すことがあり、認知症のような状態を引き起こすことがあります。比較的若い方の場合は、転倒や認知症様症状のリスクはそれほど高くないと思いますが、依存の問題があります。「効果を実感しやすい」という利点には、「依存しやすい」という欠点を伴うのです。BZPの中でも、作用時間の短い(正確には血中半減期が短い)薬物は依存しやすいといわれています。そのため、長期にわたり漫然と使用しないことや、できるだけ頓服として使用することが勧められています。薬が切れてくる頃になると不調になって、どうしても薬をやめられない場合は長時間作用の薬に切り替えてから、徐々に減らすとうまくいくことがあるので、主治医の先生と相談すると良いでしょう。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.10.26更新

何回かに分けて、精神的な不調に用いられる薬について書こうと思います。

今回は抗うつ薬についてです。抗うつ薬は、うつ病に使われるのはもちろんですが、他にもパニック症(パニック障害)、強迫症(強迫性障害)、社交不安症(社交不安障害)などの不安症(不安障害)にも用いられます。他にも摂食障害の過食衝動に対して使われる場合があります。

 抗うつ薬は、脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の働きを調整することで、うつや不安を改善すると考えられています。現在、最もよく使われるのはSSRIやSNRIと呼ばれる種類の抗うつ薬です。SSRIはセロトニンに、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンに対して選択的に働く薬と言う意味で、何が利点かと言うと、副作用が少なく飲みやすいとされています。SSRI・SNRIが世に出る前は、抗うつ薬の主役は三環系抗うつ薬と呼ばれるものでした。三環系抗うつ薬は効果が優れているのですが、口が渇いたり、便秘がひどかったり、尿が出にくくなったり、立ちくらみがするなどの副作用があり、時に飲み続けることが難しい点が欠点でした。最近のSSRIやSNRIと呼ばれる抗うつ薬はこうした副作用が軽減されて飲みやすくなっています。ただし、副作用がまったくないわけではありません。SSRI・SNRIの代表的な副作用は飲み始めの吐き気やむかつき感、食欲低下などです。眠気や、逆に不眠が起こることもあります。回復してからは、体重増加や性機能障害が問題となることがあります。実際の治療の際は、少量の薬から始めて、体に慣らしながら、徐々に薬を増やしていきます。

 抗うつ薬は種類によらず、十分な量を十分な期間続けることが大事です。患者さんの中には、症状が良くなるとすぐに服薬をサボってしまう人がいますが、完全な回復が遅れたり、将来再発のリスクになることが分かっています。

 抗うつ薬の治療で特に気をつけなければならないことは、時に患者さんの衝動性を高めてしまい、自分を傷つける・自殺するなどの危険な行動を引き起こす可能性があることです。特に服用し始め1ヶ月くらいは、注意が必要な時期で、週1回以上の診察が望ましいでしょう。他にもイライラしたり攻撃的になったりする場合があり、特に、20歳台の若い人や、潜在的に双極性障害(躁うつ病)になりやすい素因を持っている人(血縁者に双極性障害の方がいる、元々循環気質、高揚気質であるなど)は注意が必要です。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.10.26更新

「前の病院では医者が話を聞いてくれなかったから・・・」という理由で当院を受診される患者さんが結構います。そういった患者さんたちが、一方的にすごく喋る人たちかというと、全くそうではありません。どうやら、きちんと問診をしてくれないとか、質問してもはっきりしたことを言ってくれないということが不満だったらしいのです。ひどい所では、初診時にアンケート用紙みたいなものを記入させられて、医師の診察は5分程度。それで「うつですね」と言われて、薬を出される。良くならないと伝えると特に説明はなく「それじゃあ、薬を増やします」と・・・。患者さんたちも、もっと医師に希望を伝えたり、説明を求めたりすれば良いのでしょうが、患者側の立場というのはなかなかそういうことを言いにくいものだとおっしゃいます。

 私は、とにかく話を聞けば良い医者であるとは必ずしも思っていません。例えば、うつ病のときなどは過去に自分が行った「良くなかったこと」を思い出して、クヨクヨ悩むことがあります。しかし、それを延々と話してもらって、それは良かったとか良くなかったとか言っても治療には役に立ちません。うつ病ならまず十分な抗うつ薬と休養です(現代型うつ病は薬や休養では良くならないと言われますが、それはまた別の話です)。この場合、うつ病と診断するために的確に問診、治療方針や薬の副作用・回復の大まかな見込みなどの説明等が、医者がすべき「話」で、それも当然なるべく効率的に行うべきです。さらに、日本の保険診療では、少なくとも1日30人程度は患者さんを診なければ経営的にも成り立ちませんから、時間をかけるにも限界があります。それでも・・・、やはり初診が5分10分では必要なことが聞けない可能性が高いですね。再診は別としても、初診はある程度時間をかけてくれる所が良いでしょう。診断に必要な情報を問診して、治療に必要な情報提供をする、そういう意味で「話を聞く」「話をする」医者が良い医者でしょう。ただおしゃべりを好む医者が良い医者ではありません。

 

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.10.25更新

 辛い病気を経験すれば、2度とこんな状態になるのはゴメンだと思うのが人情でしょう。うつ病も辛い病気であることは間違いなく、よく患者さんからも再発への不安の言葉をお聞きします。

 

 現在、うつ病の再発については、どれだけのことが分かっているのでしょうか?

 

まず、知っておくべきこととしては、うつ病は再発回数が多くなればなるほど再発しやすくなるということです。ですから、再発を防ぐことには大きな意味があると言えます。ここで、再発について二つことを区別しておかなければなりません。一つは、うつ病としてのエピソードが完全に終わった後の「真の再発」です。もう一つは、エピソードが終わり切っていない場合の症状のぶり返しで、本来は「再燃」と言われるべきものです。

 

再燃は症状がある程度良くなっているが、脳の中ではまだ本来の状態に回復していないために起こります。このことは、残存症状が少しでも残っていると再燃しやすいことや、維持療法を短期間で止めてしまうと再燃しやすいことから明らかです。最近の脳機能を画像化する研究では、自覚的症状がなくなった後も半年程度は脳の情報処理が正常化しておらず、ある意味「負荷のかかった状態」であることが示されています。再燃を防ぐためには、とにかく残存症状をなくすまで治療の手を抜かないことと、維持療法をしっかりと行うことです。維持療法の期間は初回エピソードなら症状がなくなってから最低半年は必要です。

 

では、真の意味の再発を防ぐ手段は何でしょうか?日常生活習慣とストレスコントロールは役に立つというエビデンスがあります。日常生活では、規則正しい生活リズム、バランスのいい食事、良質な睡眠、酒を控えること、適度な運動習慣が大事でしょう。当たり前と言えば当たり前のことばかりですが。ストレスコントロールとしては認知行動療法や対人関係療法と言った非薬物療法が使えそうです。再発への不安が強い方や、2回目以降のエピソードを経験された方は、積極的にこれらを利用しても良いでしょう。うつ病の症状が辛いときではなく改善した後ならば、市販のテキストを使って自習するだけでも実行可能でプラスだと思います。完全に再発を防げなくても、経過を良くすることはできる可能性もあります。

 

最後に、再発予防という意味からはずれてしまいますが、再発という現象がありうることを知ったうえで、再発兆候があれば速やかに医療機関に受診することがとても大事です。再発が嫌だという気持ちから、受診してそう言われてしまうことが怖くなり、ぎりぎりまで我慢してしまう方が時々いらっしゃいます。治りが悪くなってしまう可能性があるので、これはもったいないです。心配なことがあれば早く受診して、医師と相談してください。再発ではないという場合もあるのですから、早いに越したことはありません。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

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