2018.10.17更新

「森田療法」という治療法があります。それが教えてくれることのポイントをこんな風にまとめることができます。これらをいつも心がけていると、余計な苦しみが減るように思います。認知療法や論理療法ともつながりを感じさせてくれますね。

 ・3つの出来ないこと
①自分の感情を完全にコントロールすること
②現実を思い通りにすること
③他の人の気持ちを思い通りにすること

・3つの出来ること
①自分の限界を知ること
②不快な感情を受け入れること
③目の前の現実の中でやるべきことをすること

 

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.10.10更新

もしもあなたの病気が、痛み、しびれ、熱感、冷汗、めまい、などの自覚症状(主観的感覚)が症状の主体で、検査で確認できる他覚所見がないか、あっても自覚症状を説明できるほどのものではないと医師に言われたら、その病気についての捉え方を変える必要があるかも知れません。

 現在の医学-身体医学-は、主観的感覚がメインの疾患に関しては限界があるのです。あなたが、それらの異常で苦しい症状の「身体的」原因を解明し根本的治療を受けたいと望むのは、患者さんの気持ちとしては当然ですが、非現実的で結局は成功しません。近い将来、このような疾患の完全な治療が確立されるという見込みもありません。

 では、医学はあなたに何も提供できないのでしょうか?

答えはNOです。実は、あなたの病気にも、ちゃんと治療法があって、改善している人たちもたくさんいるのです。上述したことと矛盾するようですが混乱しないでください。

 あなたの病気は身体表現性障害といいます。

原因は不明ですが、脳内のセロトニン・ノルアドレナリン神経系の機能障害と関連しているらしいことは分かっています。不調を感じている部分の障害がメインではなく、それを感じる中枢神経の機能障害と考えた方が近いのです。体の出す信号に敏感と言い換えてもいいでしょう。ただし、「気のせい」「精神的なもの」というあいまいなものではありません。れっきとした病気で、外来患者の20%を占めるという統計があります。あなたが考えてきた病気とはちがうかもしれませんが・・・。治療は、あなたの身体、心理、行動、環境のすべてを考慮した専門的治療が必要です。残念ながら、症状を完全に取りさることは不可能です。しかし、症状が維持されるメカニズムとそれを打ち崩す方法は分かってきています。症状を消すのではなく、生活に支障がないレベルまで抑えることを目標とすれば充分に回復の見込みはあるのです。

 まず大きな問題は、あなたがそういう「一見、見栄えのしない」治療を受け入れられるかということです。患者さんの中には、「自分の病気が治らないのは、医者が正しく理解してないせいだ。検査で何か見落としがあるに違いない。きっとどこかに正しく診断してくれる医者がいて、ちゃんと治してくれるはずだ。」という考えが変えられず、不幸な転帰を辿る方もおられます。そういう方たちは、無益な検査や処置を繰り返し、医療に不信感を持ちながらも依存せざるを得ず、医療者側からも「やっかいな患者」扱いにされます。初めは共感してくれていた人々も次第にそれらの憂鬱な患者さんたちから遠ざかり、患者さんは孤独になります。残念ですが、ここまで行くと、回復は非常に困難になってしまいます。われわれは、あなたがそうならないうちに「本当の治療」を始められることを望みます。

 それでは「本当の治療」はどんなものなのでしょうか?

この治療では、患者さんは受動的に治療を与えてもらうのではなく主体的にいろいろなことをやらねばなりません。まず、原因の詮索をやめることが要求されます。次に、あなたが自分の症状をどのように考えて、それによってどんな気持ちや行動が引き起こされているかを理解しなければなりません。これは、専門的な記録法をあなたに実行してもらうことで可能になります。この過程で、ストレスがあなたの症状に影響を与えていることも明らかになるのが普通です。このことは病気の原因がストレスだと決めつけることとは全然違うので注意してください。同時に、症状中心だった生活を立て直していくことが本質的に必要です。症状が残っていても、辛くても、やるべきことを実行することが要求されます。ここが、この治療の最大の難関かもしれません。でも、悲観的になる必要はありません。無理のない方法で徐々に始めれば成功の可能性は高くなります。具体的なやり方は診察時に医師と相談して決められます。このように、治療を進めれば、あなたの症状は完全にはなくならないとしても、改善するのが普通です。そのとき、病気中心だったあなたの生活もいきいきと充実したものになっているはずです。

 薬物は効果がないのでしょうか?

上述したように、脳内のセロトニン・ノルアドレナリン神経系の機能障害と関連していることが示唆されており、ある種の抗うつ薬を使用すると治療全体を進める上で助けとなることがあります。

 治療はどこで受けられるのでしょうか?

どの科の医師でも、経験と技術のある先生なら問題ありませんが、一般的には認知行動療法に精通している精神科医・心理士がベストでしょう。まず、今かかっている医師に相談してみるといいでしょう。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.10.03更新

自分を縛る思い込み

 

・苦しい時は、自分の思い込みで自分自身を苦しめてないか点検する。

・「~でなければならない」「~しなければならない」という考えに支配されていないか?

・思い込みを修正するには、まず、自分の思い込みを書き出して、明確にしてみること。

 

例えば、

・「いつも人に勝ってなければならない」「いつも人の役に立たねばならない」などの思い込みがあると・・・

 

→いまは周りの人より出来ないことがあるし、貢献できてない。

→自分はダメだ・・・。

 

そうやって、自分の首を絞めてしまう訳です。

 

これを、健全な思いに修正するとどうか?

 

健全な思いは、「~でなければならない」ではなく「~したい」という形です。

・「いつも誠実に努力して成長したい」「できるだけ他者に貢献したい」。

 

→新しい仕事を覚えることに誠実に取り組める。

→今の自分と周囲を不必要に比べたりしない。

→今後、仕事を覚えて周りに貢献したいという意欲を維持できる。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.04.17更新

劣等感は「自分はこんなものじゃない」という向上心の現れ。劣等感を刺激されてもそのままの自分をまずは受け入れる。「いろいろな事情の末、今の自分がある。だから、今はこれでいい」。劣等感を覚えることがダメなのではないということを自分にいつも言い含めておく。


頭の中の思考(やはり、自分はダメじゃないか・・・)ではなく、「今、ここ」の目の前の五感に意識を集中する。美味しいものを本当に味わってゆっくり食べる。気持ちのいい音楽を聴く。運動して気持ちよく汗をかく感じに集中するとか。


人は誰でも劣等感を強く刺激されると、3日くらいは「ショック」を受けて、とても自信がなくなったように感じる「衝撃反応」が起こることを知っておく。この3日間は、自分をいたわり、ルーティーンの日課を淡々とこなす。生活リズムや食事、運動など、できるだけ自分がこうありたいと思う生活をきちんとやることです。この間は、新たなショックを重ねないようにする(例:自慢好きな友人と会うのを控えるなど)。


冷静さが戻ってきたら、その時に刺激された劣等感は自分に何が足りないことを教えているのかを考える。容姿やお金、きれいな彼女がいるといった「外的な条件」などではなく、自分は何を大事にして生きていきたいかという「内的な価値観」という観点で考えてみてください。
その足りないものを手に入れるために、現実的かつ可能な手段を考えて実行する。行動だけが劣等感を解決する道です。


また、同じようなことがあっても、いつもより劣等感を刺激されなかった経験があれば、その時はどんなことが役に立ってきたかを考えてみてください。それを再現することも有効。


いつも自分を他人と比べていると劣等感を刺激されやすい。他人ではなく、過去の自分と今の自分を比べるようにする。できるようになったこと、成長できたことを書き出す。


他者や社会に貢献することを大事にしていると劣等感を刺激されにくい。小さなことでいいので、他者や社会に貢献することを考えて実行する。この時、誰かが認めてくれなくても、自分で自分を認められることを念頭に置く。


ただし、こういうことは確かに正しいが、気持ちを揺さぶられている瞬間には無力!!そこで、即効性が期待できる方法を提案します。

 

 「表情筋トレーニング法」

人間の脳は、表情を作ることで脳内ホルモンの分泌を変えることができる(証明されている)。

つまり、脳は「作り笑い」でも騙されてしまうということ。これを利用するのが表情筋トレーニング。

ただし、ネガティブな気持ちに陥っているときに、ただ作り笑いをしても思ったほどの効果は出ません。それは、ネガティブな感情にどうしてもとらわれてしまうからです。そこで、一工夫。「感情を流す」テクニックを組み合わせます。

 やり方

①鏡の前で、ネガティブな気持ち、例えば怒りなら、できるだけ怒った表情をする。コツは、これ以上できないくらいに怒った顔にする、誇張すること。そして、同時に心の中でできるだけ強く怒りを感じ続けようとしてください。人間の脳は極端なことをやり続けることが苦手なので、必ずどこかでばかばかしくなってきます。


②ばかばかしくなってきたら、今度は思い切り笑顔を作ってください。笑顔を作るときは無理に楽しい気持ちになろうとせず、表情を作ることに集中してください。笑顔を10秒、そして5秒休み、また笑顔を10秒、5秒休み・・これを5セット繰り返します。


③終わったら、元々あったネガティブ感情、怒りなどがどの程度減っているか数字で表現してください。元々10だったのが3になったとか。


効果がなければ、①~③を再度やってみてください。最初は10が9になるだけでもOK。繰り返しているとうまくなります。
怒り以外でも、卑屈さ、嫉妬、失望などいろいろな感情に対応した表情をトレーニングしてください。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2018.01.26更新

職場でもプライベートでも、人間関係は最大のストレス因ですね。

イヤな人はどこにでもいますが、なるべくなら、自分が受ける被害を最小限にしたいものです。

代表的な心理療法である、認知療法や対人関係療法の考え方を使って、イヤな人にどう対処するかをまとめてみました。

 

1.「あの人のせいで私は具合が悪くなる」は本当か?

イヤな人  →  自分が不調になる

(原因)     (結果)

 

原因論という考え方。分かりやすいが、人はこんなに単純ではない。しかも、解決というよりは「被害者意識」や「無力感」につながりやすい。

 

    ・あの人が悪いから・・・

    ・かわいそうな私・・・

    ・(他人は変えられないので)どうにもできない自分は無力・・・

 

2.自分の受け止め方が結果を変える

不完全な他者 → 自分の解釈・意味づけ → 自分への影響

(外部の出来事) (認知)         (結果)

 

認知療法の考え方。「他者」「外的出来事」そのものが自分への影響を決定するのではなく、「自分の解釈や意味づけ」が決定するのだという考え方。

「自分の解釈や意味づけ」=捉え方を変えれば、自分への影響を変えることができる。自分への影響は自分で変えることができる。

 

つらくなる捉え方の例

相手を決めつける 「絶対こういう人だから・・・」
正しいか正しくないかを優先しすぎる 「相手が間違っている」
自分を無力な被害者と考える 「どうせ、何も変わらない」
 

3.怒りという感情とうまく付き合う

怒りとは? 本来あるべき状態との不愉快なずれがあるというサイン

つまり、「怒っている」は「困っている」と同じ意味。

 

まずは、本当に困っていることは何かはっきりさせたうえで、

うまくいってないことをうまくいくようにする
「うまくいくはずだ」という自分側の期待を変える


4.人間の不完全さを受け入れる

他人は不完全な存在であり、欠点や弱点を持っていることを受け入れる=自分の不完全さも受け入れることでもある。他人が何をしても許すということではない。

不完全な人が集まって、何とか協力し合っているのが、社会や職場。

 

5.相手との関係にストレスを感じるときにできること 

被害者にならない

・自分が「被害」にあったというストーリーを「本当にそう断言できるか」と保留する態度を身に着ける。

・人にはいろんな事情があるはずだと考える。そして、他人の事情をすべて知ることは不可能なのだから「決めつける」ことはできない。

・「正しさの綱引き」に勝利はない。相手の事情を理解しようと努め、どちらが正しいかを決めない態度を身に着ける。

 
自分の課題と相手の課題を分離する

・相手が自分に何を期待するかは相手の課題、どこまで応えるかは自分の課題。相手の課題はコントロールできない、自分の課題をコントロールすることに集中する。

・相手の意見は相手がそう思っているだけ、それを採用するかは自分が決める。不愉快なことは「あなたはそう思うんですね」と受け流す。

 
期待のずれを解決する

・自分が相手にしてほしいことをしてくれない、してほしくないことをする、どちらもストレス。期待のずれ。

・相手を変えることはできないが、相手の行動は変えてもらえるかも。

・要求よりも依頼の方がうまくいく。

・自分の期待は相手にとって現実的に可能か? 

・自分の期待は相手に、きちんと分かりやすく伝えられているか?

・相手が自分に期待していることは何かつかめているか?

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2017.12.08更新

未来は分からない。それでも人間は未来を予想してしまう。そこに、不確実なことに対して不安を感じるということが起こります。不安は危険があるということに対する警報です。不安を感じるから、脅威に対して対策を立てることが出来ます。その一方で、不安から心を病むこともあります。

 

不安には2種類ある

・対処すべき不安:例えば、災害に備えること、防犯対策を行うこと、チャレンジに必要な準備をすること・・・これらは結果に対する不安があるからこそ、その不安に具体的な行動で対処するわけです。言い換えれば、具体的な行動で軽減させるべき不安ということです。

・感じるしかない不安:やるべきことをやっても、人間は完璧ではなく、結果は出てみないと分からないということは残ります。このような不安は感じるしかないのです。いやむしろ、感じることが正当な不安ということです。
 

心を病むことになるのは「感じるしかない不安」の扱い方を間違えた場合

感じるしかない不安から逃げることは出来ません。最もまずいやり方は、この不安を頭の中で否定しようとすることです。考えないようにしようとする、そんなに不安に感じる必要はないと気持ちを押さえつける、何か理屈をこねくり回して自分を安心させようとする、誰かに「大丈夫だよ」と言ってもらうような「保証」をしてもらう・・・これらすべてが逆効果になります。なぜか?人間の思考や感情は「~しないようにする」という否定形のコントロールは苦手にできているからです。試しに何かについて「絶対に考えないようにしよう」と実験してみてください。結果は「より考えてしまう」でしょう。同様に、不安や悲しみなどネガティブな感情を抑圧しようとすると、短期的にはうまくいっても、リバウンドしてかえってそのような感情が強くなってしまい、最悪、心を病むことが分かっています。
 

不安から逃げるのではなく、感じることが大事

不安を感じたら、自分が不安を感じているという事実をただ受け入れましょう。対処すべき不安であれば具体的な行動を取るのです。感じるしかない不安であれば、不安に意識を集中して、自分の内部感覚を味わうのです。胸が苦しい感じだとか、喉が詰まる感じだとか、心臓がドキドキするとか・・・。気をそらそうとするのはなく、逆に注目するのです。何が起こっているのか、一つも見落とさないように注意深く見守るように。コントロールしようとしてはいけません。今、ここで、あるがままに感じていることを味わってください。不安とともに、悲観的な思考が沸きあがってきても、それもそのまま自由に心に浮かぶままにするのです。そして、しっかりと見守ってください。ただし、少し離れて観察するようなイメージで。
 

感じていることは「未来の現実」ではないことを思い出す

どんなに、不安を感じて、悲観的な思考が浮かんできても、現実がそのとおりになるわけではありません。悪いことが起こるような不安がいくら強いからといって、その不安の強さで現実が決まるわけではないのは、落ち着いて考えれば明らかなはずです。感じていることと現実は別、当たり前です。この当たり前のことを思い出すようにしてみましょう。
 

5.現実の行動は、不安に左右されず、「自分が目的を達成するため」のことを実行する

  例えば、結果が分からないチャレンジをするなら誰でも不安を感じます。感じるしかない不安は受け止めて、その上で、行動はそれに左右されないようにして、しっかりと具体的な準備を実践することです。

 

6・不安に負けない体を作る

そうは言っても、過剰な不安に混乱してしまうようでは困ります。体の調子が良くなければ不安に負けてしまうかもしれません。生活リズムをキープし、7時間以上の睡眠とバランスのいい食事をとりましょう。運動習慣も必要です。アルコールやカフェインは控えましょう。腹式呼吸で副交感神経を強化しましょう。

 

7.気持ちを聞いてもらえる人を作りましょう

  素直に、飾らないで、自分の気持ちを無批判に聞いてもらえる相手を作りましょう。批判やアドバイスをする相手には安心して正直な気持ちが話しにくいでしょう。注意しなければならないことは、相手から不安を打ち消すための「慰め」や「保証」を求めてはいけないということです。不安を感じていることは当然の気持ちでおかしなことではないと認めてもらうだけでよいのです。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2017.10.27更新

患者さんへの情報提供

 患者さんに十分な情報提供を行うことは医者の義務です。しかし、医者の側が十分に説明したつもりでも、患者さんがきちんと理解できているとは限りません。限られた診察時間で、耳から聞いた情報では、そのときに理解したつもりでも、忘れてしまう場合もあります。当院では、こうした情報不足を補うためにいろいろな資料を作って、患者さんにお渡ししています。

一例として「〇〇恐怖症、不安・緊張症状の治療のために」という内容をここにアップさせていただきます。

【基本的な理解】

高い所が怖い、狭い所が怖い、尖った物が怖い、雷が怖い、人前で緊張することが怖い、赤面するのが怖い、手が震えるのが怖い、汗が吹き出るのが怖い、電車の中で大便が漏れることが怖い、パニック発作が怖い、吐いてしまうことが怖い・・・いろいろな恐怖症があります。怖いもののテーマは様々でも、すべてに共通することが2つあります。一つは、落ち着いている時に冷静に考えれば、不安・恐怖が「過剰」つまり「行き過ぎている」ということ。もう一つは「回避行動」つまり「症状のせいで何かから逃げるという行動」が発展することです。

このような病気はどのように生じるのでしょうか?「不安を感じやすい身体的要因」と「不安と回避の悪循環的学習」という側面を理解することが大切です。最初の症状出現は、いくつかの条件が偶然重なって起こるようです。例えばパニック障害という病気では、仕事が忙しくてストレスがたまっていた、睡眠不足だった、昨夜飲み過ぎた、遅刻しそうで走って電車に飛び乗った、などの状況で初めてのパニック発作(激しい不安発作)を経験します。その経験が、あまりにも不快で辛い体験であるため、「また発作が起こったらどうしよう」という予期不安が高まります。その結果、発作が起こったら困る状況を避けるようになり、「ちょっとドキドキしたけど、電車を降りたから発作にならず助かった」というような回避行動による一時的な不安の軽減という学習を繰り返してしまいます。すると「逃げ癖」がついて、さらに回避行動が発展し、その結果、症状に対する不安は一層強くなっていきます。いざ回避できなくなったときに耐えられなくなってしまい、患者さんはますます自信を失います。これが悪循環的学習です。

そもそも、不安や恐怖という感情はなぜ存在するのでしょう?それは、動物が天敵等の危険に遭遇した際に、逃げるか戦うかという非常事態に適応するための警報と考えられています。これは自律神経の一つである交感神経の働きです。〇〇恐怖のような症状は、本来は危険ではないものに対して、「危険である」という誤った認識が脳の中で成立してしまい、それが回避行動という誤った対処法によって強化・維持されたものといえます。安全が確保されているはずの高い所が、高所恐怖の人の脳の中では「危険」であり、パニック障害の患者さんの脳の中では電車の中が「危険」、赤面恐怖の人の脳の中では、何でもない社交場面が「危険」というわけです。

【不安を感じやすい身体的要因とはなにか?】

脳の中には不安を感じる神経回路が存在します。その回路が不安定になることで誤作動が生じやすくなると、本来危険ではないものに対する恐怖反応が起こりやすくなります。身体的要因には以下のものがあります。

・遺伝的な要因

・睡眠不足、不規則な生活

・疲労、ストレス

・運動不足

・風邪などのちょっとした不調

・アルコール

・ニコチン

・カフェイン

・違法ドラッグ、脱法ドラッグ

・うつ病、双極性障害などの精神疾患

【回避行動とはなにか?】

 患者さんが症状から逃げようとして行う行動のすべてが回避行動です。辛い症状から逃げたくなるのは人情であり自然なことです。しかし、〇〇恐怖というのは、本来は危険ではないものに対する過剰な不安・恐怖反応が誤って脳の中で学習されてしまったものであり、回避によって「本当は脅威ではない」という再学習が出来なくなってしまうという点がポイントなのです。回避行動には分かりやすいものと分かりにくいものがあります。パニック発作の患者さんが電車を避けるのは分かりやすい回避、電車に乗るときにドアの側から離れず奥の方に行かないのは分かりにくい回避です。赤面恐怖の人が、人を避けるのは分かりやすい回避、社交場面で酔ってしまおうとするのは分かりにくい回避です。雷恐怖の人が雷雲を避けるのは分かりやすい回避、雷情報を過剰に閲覧するのは分かりにくい回避です。そして、恐ろしいことに、抗不安薬を頓服で使うという「治療行為」でさえ、使い方を誤ると、もっとも分かりにくく止めにくい回避行動になってしまうということなのです!

 どんな治療を行ったとしても、回避行動がある限りは本当の意味では病気は治りません。回避行動を徹底的に止めて行く事がどうしても必要です。これは人情に反した、不自然な行動です。こんなことを好んでする人間はいません。だから、回避行動を止めていくためには、医者患者間の信頼関係が重要であり、患者さん自身の強いモチベーションが必須となります。治療者や薬任せでは絶対に治りません。

【治療方針】

 まずは、以上のことを良く理解することです。本来は危険でないものを脅威と認識して、不安回路が誤作動を起こし、交感神経の過緊張が症状を引き起こしていること。そして、さらに重要なことは、症状から逃げようとする回避行動が病気を維持・悪化させているという事実を理解してください。

 次に、身体的要因を極力無くすことです。

・規則正しい生活、7時間以上の睡眠

・アルコールは原則摂らない、カフェイン、ニコチンの摂取は出来るだけ減らす

・違法、脱法に関わらずドラッグは絶対にダメ

・運動習慣を作る ウオーキング1日8000歩以上目標

そして、交感神経に対抗するリラックスの自室神経である副交感神経を刺激するリラクゼーション技術を身につけてください。腹式呼吸法がお勧めです。 

その上で、回避行動を少しずつ止めていくことに最大限の努力をしてください。やり方の相談は医者にしてください。抗不安薬の頓服は、薬以外の回避行動を止めていくためだけに使うことが必要です。ただ、その場の症状から逃れるために使うのであれば、「治療行為」が本当の意味では治療ではなく、病気を維持・悪化させてしまうという皮肉な結果になってしまいます。

【症状を抑える薬をうまく使っていくだけでは何がいけないのか?】

 これはいけないことではなく、患者さんが選ぶべきことです。症状が比較的軽度で、かなり限られた状況でしか起こらない場合などは、薬で抑えてしまえば済むかもしれません。

 一方で、薬を飲み続けることには不便なことやリスクもあります。例えば、抗不安薬は基本的に飲酒を避ける必要があります。実際には、服薬しながら飲酒している方もいますが、記憶の混乱を引き起こす、吐物をうまく排出できずに窒息する、などの危険もゼロではなく、お勧めできません。また、抗不安薬を長期に続けると、気分が不安定になったり、いざ薬を止めようとすると不安が強くなったりすることがあります。さらに、将来的に認知症になる可能性が上がるのではないかという海外の報告もあります。繰り返しますが、ご自分の治療で何を優先したいかを選ぶのは患者さんです。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2016.12.01更新

 今年からストレスチェック制度が始まり、高ストレス者の医師面談を行うようになりました。そこでよく出会うのは、やはり長時間残業をしている労働者。

少し前、電通で長時間労働を強いられていた方が自殺したというやりきれないニュースがありましたが、まさに氷山の一角です。それでも、きちんと時間外労働時間が管理されているならまだいい方で、多くの企業では、いまだに時間外労働を正確に記録できていないのが実態です。

 

なぜきちんと打刻しないのか労働者に尋ねてみると、職場風土の問題として残業申請をしにくい状況があったり、正確に打刻しにくい雰囲気があったりするとのことです。申請しようとしても上司から嫌な顔をされる、残業が長いとただ「残業時間を減らせ」と言われ業務量は減らないから困る、先輩たちもつけてないからとか・・・。労働者側にも「自分が効率的に出来てないだけだから残業申請するのは申し訳ない」「みなし労働なのでどうせ残業代がつかないから申請しない」などの心理が働くことが要因になっているようです。

 

長時間労働が常態化すると、結局、時間内に終わらせるという健全な緊張感も弛緩してしまうようです。

帰宅が遅くなり、睡眠時間が削られ、脳の機能が低下し、効率が落ちます。そして、効率が落ちることにより、時間がかかり、ますます長時間残業から抜けられなくなる悪循環も生じます。深夜に及ぶ残業をしている間、脳の機能は酔っぱらっているときと同じ程度まで落ちるのだそうです。そんな状況で良い仕事ができるのかはなはだ疑問です。

 

それでも長時間労働が無くならないのは、「長時間働くことは美徳」という日本的な考え方がまだまだ支配的だからだという気がしてなりません。

特に、経営層や管理監督者の中にはきわめてタフな働き方をしてきた方々が多く、自身が若かった時にモーレツに働いていたことを基準にして考える人が多いのです。残念ながら、上の立場の方たちが、長時間労働を心のどこかで是としているうちは、組織の雰囲気は変わりません。

「人事がうるさいから残業するな」というような指導になりがちで、時間内に効率的に働く環境を作ろうと本気で取り組むことがないようです。(次回につづく)

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2016.06.17更新

 

先日、東京大学で職場のメンタルヘルス専門家養成講座の同窓会がありました。私は第一期生ですが、今回は4期生が加わり、さらに大きな会として発展しています。

そこで、主任教授の川上憲人先生からストレスチェック制度が今後どのようになっていくかについての予想についてお話がありました。川上先生は「どこまで予言が当たるかはわからないけど」と、控えめに話してくださいましたが、私は大いに実現しそうだなあと思いました。

一つは、現行のストレスチェック制度では組織分析に基づく職場環境改善については「努力義務(やることが望ましいが、やらなくても罰則はない)となっていますが、これがおそらく今後「義務(やることが必須になる)化」されるだろうということ。

もう一つは、現在、従業員が50人未満の事業所についてはストレスチェックを行う必要がありませんが、これもおそらく今後義務化されていくだろうということです。

どちらも、働く人の健康を守るうえでは当然の発展と言えるでしょうが、事業者の負担は増えるため、実際には真面目にやるところと、形だけ最低限にやって済ますところと2極化していくのではないかと、私は予想しています。また、医師面談をきちんと行って、職場に結果をフィードバックできる産業医がどのくらいいるのかも心配な点です。というのも、今回のストレスチェック制度の施行に際して、ストレスチェックの実施者になるのが嫌だからという理由で辞めてしまう産業医が結構いるという話を耳にするからです。

ストレスチェック制度はうまく機能すれば従業員の心の健康増進、生産性のアップにつながることが期待できる可能性を秘めていますが、それも運用する事業者トップ層の考え方や、かかわる産業医の質によって有益なものとなるかは大きく左右されそうです。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

2016.05.30更新

 

昨年、50人以上の従業員がいる事業場では年に1回従業員にストレスチェックを実施することが法律で義務付けられました。多くの企業で今年が初めてのストレスチェック実施となるはずです。

 

ストレスチェック制度は働く人の精神的健康を向上させ、職場環境の改善を促すためのものですが、まだまだ、一般の方に十分に理解されてない面も多いと思われます。

 

よくある誤解は、この制度が精神疾患の早期発見のためのものであるというものです。現実には、この制度はあくまでも疾患の予防を目指すためのものであり、疾患をあぶりだすことを目的としてはいません。つまり、ストレスチェックで高いストレスにさらされていると判定された「高ストレス者」が、すなわち精神疾患というわけではありません。従業員の方々にご自身のストレス状況についてフィードバックして、気付きを促すことや、組織集団の分析結果を用いてストレス度の高い部署の環境改善を促すことが主たる目的なのです。

 

また、ストレスチェック制度では、高ストレス者と判定された場合、本人が希望すれば医師の面接指導を受けることができますが、このことに関しても十分な理解が必要です。面接指導をする医師とは、多くの場合、その事業所の産業医ということになりますし、面接指導を希望したことで、従業員の方の情報が会社には伝わることになります。このことを嫌って、高ストレスであるにもかかわらず、医師の面接指導を辞退してしまう場合がかなりあると予想されます。そうなると、本当はサポートが必要な方がフォローアップされなくなってしまうことが懸念されます。実は、ストレスチェック制度で規定されている医師の面接指導は辞退しても、通常の産業医業務の中で行われる従業員との相談の方で話をすることができるのです。こちらのルートであれば、自分が高ストレス者であることなどを会社に伝える必要はなくなりますので、よりプライバシーに配慮した形でフォローを受けることができます。

投稿者: 日本橋メンタルクリニック

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